第7話 灰色の世界で


世界が灰色一色に染まる。


ノイエがスキルを発動させるとき、さまざまな情報を読み取る代わりに、全てのものが色を失う。

大地も。

人も。

空も。

唯一、アイリーンの周りを漂う光の粒子だけが、変わらず輝きを放っていた。


《スキル・クリエイト》


読んで字の如く『スキルを創造するスキル』である。

このスキルには、大きくわけて『アナライズ』と『クリエイト』の2つのモードが存在する。


『アナライズ』では、対象となる相手の身体能力を数値化によって認識したり、その後の経験や訓練によって開花する可能性がある潜在能力を見抜いたりすることができる。

ノイエは、この『アナライズ』によって、傭兵団の仲間たちの能力や適性を把握することにより、訓練内容や戦闘スタイルの変更、場合によっては愛用している獲物から別の武器種に乗り換えるよう提案することもあった。

事実、団員の中には弓使いからタンクに転身し、更なる活躍を見せた者もいるほどだ。


『アナライズ』による能力の分析は共通項目である【体力】【技術】【敏捷】の3つを基本とし、更に特筆すべき能力がある場合には、項目が追加される。

また、それぞれの能力には【成長】という情報が付与されており、今後の能力値の成長の見込みを知ることができる。


アイリーンは、ノイエが見てきた中でも群を抜いて高い能力値を示していた。

このときも、ノイエはアイリーンのすぐ傍に浮き上がった文字情報に素早く目を通す。


■ name

  アイリーン・シルキス

■ common

 【体力】76(D)

 【技術】112(B)

 【敏捷】91(C)

■ rare

 【武器:槍】93(C)

 【指揮】110(B)

 【カリスマ】123(B)

■ skills

 【ウォークライ・フラッグス】

■ skill points

  13 pts


数日前に確認した内容と同じ…いや、スキルポイントが大きく減少している。

スキルポイントは、ノイエがスキルをクリエイトするために必要なポイントであり、対象の経験や自己研鑽により蓄積していくものだ。

しかし、この数日でノイエはアイリーンに新しいスキルを授けてはいない。

あと考えられる可能性は…。

ノイエは、急いで【ウォークライ・フラッグス】をタップする。

すると、信じられない内容が目に飛び込んできた。

まさかとは思っていたが、アイリーンはやはり新しいフラッグを獲得していた。

しかし、自分の『クリエイト』によるものではなく、自らスキルを習得するなんて…ノイエは改めてアイリーンが特別な存在なのだと思い知る。


慣れているとはいえ、ノイエが【スキル・クリエイト】を発動させてから、新しいフラッグの存在を確認するまで、およそ3秒を要している。

これは、黒い影が新たにスキルを行使しようとしている彼女を止めるか、ノイエの首を跳ねるかするには十分な時間だが、影たちは何故か状況を静観している。


その様子を横目に見ながら、ノイエは新たに追加された


フィフス・フラッグ《アマルテア》


をタップして、その効果を確認する。


…伸ばした指先が震える。

…喉がカラカラに渇く。


表示された《アマルテア》の情報には


【対象】指定する1人

【持続】スキル行使者が解除するまで

【効果】あらゆる危険を排除又は回避し、生きることを強要する


とあった。


間違いない…。

これは、自分をこの場から逃すためのスキルだ。

これは、自分だけをこの場から逃すスキルだ。

これは、自分をこの場から逃すためだけのスキルだ。


いやだ…。

それは、いやだ…!

いくら団長の命令といえど、それだけは受け入れられない。

団長を残して逃げるなんて考えられない。

それなら、団長と一緒にここで最後を…


そこまで考えたとき、アイリーンの周りを取り巻く光の粒子がひときわ大きな輝きを放ち、スキルが発動する。


そして、アイリーンの唇が動き


「生きてね、ノイエ。」


とささやいた瞬間、ノイエは体を反転させるや、全速でその場からの離脱を図る…自分の意思に反して。

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