第4話 《スキル・クリエイト》

ノイエは、しばし考え込んだ。

声の主は、自らをあの力のナビゲートシステムだと言った。

額面どおり受け取れば、あの力の説明書のようなものが案内役として擬似的な人格を得た…ようなものだろうか?

名前をオフィーリアといった彼女(たぶん彼女で合っている…と思う)は、ノイエが力を得たときに、その力の使い方を教えてくれた後は、ノイエがいくら呼び掛けても応じることはなく、今の今まで沈黙を貫いていた。

その彼女が、ルムドフの門が開き始めると同時に再び口を開いたかと思うと、とにかくこの場から離れろと言う。

以前とは違う彼女の様子を訝しみながらも、ノイエは既に8割ほどが開け放たれたルムドフの門から目を離さない。


いや、離せない。

確かに、オフィーリアの言うとおり、これは何かがおかしい。異変の正体を掴めないまま、ノイエはアイリーンに意識だけを向け

「団長!何か嫌な感じがします。みんなに援護を…」

と声を掛けたとき、彼女は既に行動に移っていた。


右手を空高く掲げ、目を閉じて精神を集中する。

すると、次第に黄金色に輝く光の粒子が彼女の周りをふわふわと漂い始めた。

そして、アイリーンの身体の周りを巡る光の粒子が奔流となってうねり始めたころ、彼女はゆっくりと目を開け、天に伸ばした右手を強く握りしめた。

すると、彼女のその行動に呼応するように、天空から降り注ぐ光の槍が彼女の周りに突き刺さる。

その数、4。

それを見たノイエは密かに感嘆する。

アイリーンが初めてこの能力を使ったとき、その場にノイエも立ち会っていたが、1本の光の槍が大地に突き立った!…かと思うと、アイリーンが気絶してぶっ倒れてしまい、ノイエを大いに慌てさせた。

たが、たった数ヶ月でアイリーンはこの能力を完全に自分のものにしたようだった。


アイリーンが起こしているこの現象は、《スキル》と呼ばれる異能力である。

《スキル》とは、その人間の能力の限界、それを超えた先にある力や現象を実現する力。

通常、人間は自らの能力、適正、潜在する力、能力の限界など、生きる上で最も重要な自分の可能性すら知ることができない。

だが、稀に自分の能力や方向性を正しく理解しつつ、潜在する力を引き出し、自己の限界まで能力を高めることのできる人間が存在する。

そして、限界まで自己を鍛えた者のみが立ち入ることを許される領域、つまり限界を超えた先の力。

その力を具現化し、自己の意思で顕現させることができる能力、それが《スキル》である。

しかし、《スキル》は限界まで能力を高めたからといって必ず習得できるものでもなければ、自分が望む形の《スキル》を習得することができるという保証があるわけでもない。

極端な例を挙げると、毎日斧を振るう木こりが、一振りで兵士10人をなぎ倒す戦闘技能を身に付けることがあれば、剣に一生を捧げ、戦場を舞うように駆け抜ける剣士が、全く意図しない失われた伝統舞踊の舞を会得してしまうこともある。

元々の習得の困難さに加え、自分の生き方と真逆の能力が顕現することも珍しくない《スキル》が、次第に人々の関心や記憶から消え去ることは、至極当然のことだった。


だが、アイリーンは《スキル》を行使する。

自分が置かれている指揮官としての能力を最大限に発揮することのできる《スキル》を。

そして、このアイリーンの《スキル》は、自己研鑽の末に偶然に習得したものではなく…


ノイエが《創造》してアイリーンに授けたものであった。

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