第7話 雇われ傭兵と治安改善

 商業税の引き下げと商人ギルドとの合意を得た俺は、領地の再建に向けて順調に一歩を踏み出していた。


 しかし、領地全体に平和と安定をもたらすためには、次に解決しなければならない重要な問題が残っていた。


 それは、治安の悪化である。


「治安の改善が進まなければ、どんなに税率を下げても商人たちが安心して取引できないだろう。盗賊や山賊が跋扈している今、何とかしてこの状況を打破しなくてはならない」


 俺は執事のグレゴールと共に、領内で発生している盗賊団の情報を整理していた。


 近年、領地の経済が停滞している背景には、この治安の問題が大きく関わっていた。


 商隊が襲われ、領民も山賊の脅威にさらされているため、人々は不安を抱えて生活している。


「若様、領内にはいくつかの盗賊団が根を張っており、特に東の山間地帯を拠点とする一団が最も手強いと言われています。彼らは組織的に動き、商隊だけでなく、村々にも襲撃をかけているとのことです」


 グレゴールの報告に、俺は考え込んだ。


 この状況を打開するためには、軍事的な手段も必要になるだろう。


 領主として、俺は兵を出してこれらの盗賊団を取り締まるべきだが、今の領地には大規模な軍を動かせる余裕がなかった。


「今のところ、我々だけでこれに対処するのは難しい。だが、治安を改善しなければ、領地の復興はあり得ない」


 俺はため息をつきながらも、決断を下す。


「傭兵を雇おう。彼らの力を借りて、盗賊団を排除するしかない」


 ---


 傭兵団との契約を決断した俺は、領内で評判の高い「黒狼傭兵団」に目をつけた。


 彼らは戦闘に長け、特に治安維持や盗賊討伐に強い実績を持つ一団であった。


 彼らが力を貸してくれれば、領内の治安改善が大きく進むはずだ。


 数日後、俺は黒狼傭兵団の指揮官、ロイと会談の場を設けた。


 ロイは30代後半のたくましい男で、鋭い目つきと粗暴だが正直そうな風貌をしていた。


 彼は何度も戦場を渡り歩いてきた猛者であり、戦術的な知識も豊富な男だと評判だった。


「お前が黒狼傭兵団の指揮官、ロイか。治安改善のために力を貸してほしい」


 俺がそう言うと、ロイは腕を組みながら少し考えるように首を傾げた。


「治安改善とはまた大きな依頼だな。俺たち傭兵団は基本的に短期の戦闘を請け負うことが多いが、治安維持ともなると長期間の契約になるだろう。それに、相手が盗賊団なら相応の危険が伴うが……」


 ロイは言葉を濁しながら、俺を鋭い目で見た。


 彼は慎重な判断をする人物であり、ただ金を求めるだけではなく、契約の内容やリスクをしっかりと確認するタイプの傭兵だった。


「報酬については、我が領地の財政状況を考慮して提案するが、まずは治安を回復することが最優先だ。商業活動が活性化すれば、追加報酬の余地もある。だが、まずはお前たちの腕を見せてくれ」


 俺はそう言ってロイの腕前を試すつもりだった。


 俺自身がまだロイを完全に信用していなかったからだ。


 しかし、ロイはにやりと笑みを浮かべて俺の言葉を受け取った。


「ふむ……領主様も俺たちの腕を確かめたいってわけか。いいだろう。まずは小規模な盗賊団を叩き潰して、その結果を見てもらおうじゃないか」


 ---


 その夜、黒狼傭兵団は早速行動を開始した。


 彼らは事前に得ていた情報をもとに、東の山間地帯に潜む小規模な盗賊団を標的とした。


 俺も治安の回復がどう進むかを見守るため、密かに戦闘の進展を確認していた。


 山間地帯に入り込んだ黒狼傭兵団は、闇夜に紛れて盗賊団の拠点に接近する。


 ロイを中心とした精鋭たちは、音も立てずに周囲を包囲し、合図と共に一気に突撃を開始した。


「行けっ! やつらを叩き潰せ!」


 ロイの号令と共に、傭兵たちは盗賊たちを襲撃した。


 油断していた盗賊団は、完全に不意を突かれ、次々と倒されていく。


 傭兵団の動きは非常に洗練されており、盗賊たちはまともな反撃もできないまま、壊滅状態に追い込まれた。


 短時間で戦闘は終わり、黒狼傭兵団はほぼ無傷で勝利を収めた。


 俺は遠くからその様子を見届け、彼らの実力に感心していた。


「見事な腕前だな……」


 俺はロイの報告を受けながら、彼の指揮能力と傭兵団の優秀さに納得した。


 これなら、治安改善は順調に進められるだろう。


「領主様、どうだ? この腕前で治安の改善に十分貢献できるだろう?」


 ロイは自信たっぷりに俺に話しかけた。


 俺はその問いに頷き、契約を正式に結ぶことを決めた。


「これで領地の治安が回復し、商人たちも安心して取引ができるようになるだろう」


 俺はロイに報酬の話をすると共に、今後も彼らに治安維持を任せることを伝えた。


 こうして、傭兵団との契約が成立し、領地の安全が一歩前進したのだった。


 ---


 その後、黒狼傭兵団の活動により、領内の治安は着実に改善されていった。


 盗賊や山賊が一掃され、商人たちが再び市場に戻り始めた。


 商業活動が活発化し、領地には少しずつ活気が戻りつつあった。


「これで一つ、領地再建の大きな課題を解決できた。しかし、まだやるべきことは山ほどあるな……」


 俺は治安の回復を喜びながらも、次なる課題に向けて気を引き締めた。


 領地の復興はまだ始まったばかりであり、これからも多くの困難が俺を待ち受けている。

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