死を恐れ、奇跡を願う

「キミは死ぬことは怖くないのかい?」とかつて看護師の1人に問われたことがある。


 もちろん怖いと答える。


「まぁ、そうだよね」と彼は笑う。


 解っている、彼自身もかつて僕と同じように病を患い。死に直面し続けていたのだ。



 …そんな事をふと思い出して何になるのか、と言われてしまえば何も無い。


 長く生きることが難しい僕にとって、この場所は残された命をただひたすらに延ばすためにあるのだ。その為に点滴が繋がれた腕は力が上手く入らず動かすことすら難しい。そもそも四肢を動かす筋力を殆ど失っているからベッド上から1人で起き上がることも叶わない。

 毎日の様に繰り返される実験は治療のためと割り切っている、けれど今のままなら確実に1年後に死ぬと言われていた。それほどまでに、この身体は衰弱している。


 あの問いかけから半年以上経っているけれど、死ぬことはやはり怖い。何故、こうして生まれてきてしまったのと思う時もある。

 それでもいつかは受け入れなきゃいけない運命。この病室に居られるのも何時までか。


 そんな思考をしつつ、僕はゆっくりと視線を心電図モニターに傾けた。モニターは電子図を表示しながら一定間隔で電子音を刻み続けている。偶に音が一瞬途切れてしまう時もあるけども。その電子音は完全に止まってしまうまでのカウントダウンのようにも聞こえた。


どんな凄腕の医者でも手の施しようがない難病。移植すら出来ず、投薬と実験でひたすら延命されるだけの日々。


 …もしも遠くない未来に病気が治って退院出来たとしたらそれはきっと"奇跡 "だと僕は言うだろう。



 死を恐れ、生きたいと思う。

 すなわち奇跡を願うのはきっと今の僕にも許されるはずだから。


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