第6話 傍らにあるもの
アーティストとわたしの恋愛が発覚(ハッカク?!)してから一週間を過ぎようとする週末がきた。
仕事の休み時間、スマホをスライドして文字打ちをしてページを開いた。
そこに書かれているのは、宇宙とは何かについての新しい情報らしい。
要約してあるものを更に呑み込んで伝えるなら、宇宙の中でわたしたちの世界に存在する普通の元素は4パーセントほどだという。
宇宙の7割をしめる膨張を加速させる“ダークエネルギー”とまったくもって正体不明といわれる2割方の“ダークマター”。
ガクッと首がなった。肩こりかもしれない。
「正体不明。」
きっとそう思われたんだと思う。挨拶さえ声帯を拒否してエアーとして通り過ぎてしまうし、わたしの話題は脳内で沸騰しても言葉にならない。人と人が交流する場にわたしの声はいつも生まれなかった。今までの経験がうわっと身体の底からあふれて重すぎる塊になって喉を焼く。
黒髪前髪おさげだったあの頃…そう、学校生活ならまだましだった。だって授業は義務だし一緒にいなければならないのもわたしのせいではない。
確かに、人は上手で器用で運動神経も気の利いたセリフもこなせる人のところに集まっていく。話さなければならないなんて義務じゃないし、友達関係は必ず築かなければいけないわけではない。それでも、同じ場所を共有しなければならないのは決められたことだった。
だけど学校というものがなくなったら、
例えば仕事は、仕事の良し悪しが大事でそこを外れたら必要ではない。人間関係は仕事を成立させることを優先するのは当たり前のはずで、仕事の上での関係はプライベートまで触れ合う必要を必ずしも生じさせない。
仕事のための関係は、その子の正体に上役の人だけが住所と履歴を知るまでに留まる。仕事の忙しさはお互いの距離を近づけさせないし、興味がなかったら本当に必要ないよね。横に座る同僚や上司の姿を肌に感じて思う。
習い事なんてもっと悲惨。趣味という充実を求めた時間に余分なんて求めるのだろうか。ただの社交辞令。良し悪しが斑ならとりわけ仲良くしなくてもいい。
誰にも伺い知れない孤独なわたし、でもええと、恋ができたんだっけ?でもあれ、自分の身さえ自問できない。いつも今も趣味もなくて他に残る才能がなかったわたしは、どうしていいかわからない心の痛みがついさっき出ちゃってそれを隠すようにネット検索して聞きつけた正体不明という噂の宇宙にどれだけ魅力を感じるの?
顔が見れないものであってもそれは構成要素。
悲しみと虚空な身の殻の重さから生じる痛みを塞ぎたくてそれ以上、その説明文も読む気にもなれない。
“顔がない”と認めた自分の事実に迫るようにして正体を隠す母なる宇宙。
わたしの言い訳さえ殺してしまうの。
知らなければよかった。
嘘でも遠すぎるアーティストの間に恋愛感情は成立させることができた。それは自分をかわいがるということ。なのに計り知れないものと、空っぽなわたしは対比するほどに虚しさしか残してくれないの。
学校なんて嘘なのよと昨日までのわたしは言った。そんな短い時間で職能を持った自分は作れない。だからきっと、戦争孤児のわたしを拾ってかわいがったの、うん、そうなのよ。
なのに学生服着ている集団はわたしよりキラキラ輝いて明日の話をしながら歩いていくし、塾の電気は消えず未来を描く筆を持ち続けているように見えるの。
何もないわたしに今の仕事先の上司は、外来の業者さまからのいただきものや出張のお土産ものを無償でくれ、優しい笑顔と言葉を添えてくれた。
でも、やっぱり上司さまの親切心が突き抜けて心に留まらず通りすぎてしまうほど何かが不思議すぎるの。吸い込まれそうよ。
きっとわたしの友達だったのよ、その上司さま方は。
無理にでも遊びたいとお願いした友達の顔を思い出す。きっとあの子が、お化粧をして衣装を変えて髪形も変えてわたしを仕事という場所に置いておけるようにしてくれたの。
友達だから笑って親切にしてくれたんだ。
一昨日は、そう思った。自分でそう呟いてた。なのに、昨日、自分の良さってなんだろうってお弁当箱に残り物のおかずを詰めながら、うわっと心苦しさがでちゃってお料理の仕方も思いつかない。母が全部台所も占領してしまうせいだって思って泣いた。
そしてこの宇宙についての記事は、追い打ちをかけるようにわたしそのものを全否定したか、な…。
わたしは急に震えだして頭の中から冷たい液体が流れるような気がした。それが手の先、腹、足をつたい…身震いが止まらない。どうして自分を愛してくれるという理由が、こんなにないの。なんであそこまで作り出してしまったの。恥ずかしいよ。
天井を見上げた電灯があったって空は見えない。電灯は一体どうしてそんなに光っているの?机だって椅子だってわたしの手のうちにはない。空だけは無料だと思っていたのに空も見えないこのオフィスルーム…わたしのいる理由を誰かに教えてもらわないといられない。
「ネガティブだ。」
今の音は、自分の唇からこぼれた。誰もわたしに応え・て…テレ…パシー…を送ってくれない…。全部幻聴と妄想だったっていうのか。神様…。
瞼が重くなる。時計は15時を表示してる。
(“おやつの時間”。)
大人になれなかったと…嘆く口さえも、もうついてない。
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