第3話 眩暈2

 先週からまた鬱になってる…。


 勤務し始めた去年の年末も身体と心がぐわっと重くなった。

「勤務時間を伸ばすのは4月まで待ちましょう。」

上司との月毎にしている反省会でそのように言われた。伸ばしてすぐ元に戻すようなことになってはいけないので慎重に調節しましょうと…。

“わたしは障害者なんだね‘’心根が挫けた。

夜寝支度が嫌になって少ないLINE友達と何気ない会話をして慰めてもらったりケータイゲームで現実逃避したりした。

冬休み前の最後の日、少し夜更かしをしていたので頭がぼーっとして仕事の作業効率が悪かった。

少しミスをして

「大丈夫だよ。」

と社員さんにフォローしてもらった。

そうしてなんとか一日が終わった。

退勤時に周りにいる社員さんに精一杯の喜びを表現した笑顔で

「お疲れ様です。」

と言ってまわったが、口角を上げすぎ、目をぎゅっと細めすぎた顔は赤ちゃんが初めて笑顔を覚えた時のような幼い顔なだと思い、少し恥ずかしくなって自分は障害者なんだと心底感じた。


 正月明けて十分休めたから、普通の精神状態で仕事ができる、と思いきや、仕事の目録探して見つけられなくて被害妄想があふれてファイルをドシンと置いて社員さんに心配されてしまう。心配されて我に戻って病気をコントロールできてないことに気づいた。次の通院日を待って担当医に薬の増加を頼む。事の次第は話せずにただ鬱になりやすくて、と言った。

 それからは病状を安定させ黙々と仕事をする毎日だった。


 仕事以外にも悩みはある、それは“痩せる”こと。一番親しくしてくれたLINE友達は痩せてる方が好きだし、太っててかわいい服が着れない。痩せて綺麗なだけで楽しいと思う。

福祉サービスの施設に通う女の子に、

「夜、炭水化物抜きにするといいよ。」

と言われ試してみると2キロ、3キロ…と痩せていく。もちろん仕事終わりに少しずつウォーキングやダンスエクササイズ、筋トレなどをしている。

嬉しかったのだが、8キロ落ちた後、誕生日がやってきた。


誕生日、そうどうしてもデコレーションケーキが食べたくなる。誕生日の日は6号ケーキの4分の1切れ!

そして翌日に8分の一切れ、翌々日に最後の8分の一切れを食べてしまった。

体重はそれで1キロ増加、その後、胃が大きくなったのか間食がしたくなり、ぽつりぽつりとお菓子をたべて…今では3キロのリバウンド…。

同時に鬱が全身をよぎる。

毎日の仕事はしやすい。これから仕事が増えるのかその不安はあってももっと仕事できるようになりたいとは思う。だけど、いつもどこか自分は障害者だから人とは違うから迷惑な存在だなんていう思いが消えない。家に帰っても苦しさを発散する術を思いつかない。鬱で趣味も見当たらない。メール友達も増えなくてさびしくてスマホのメール、ホームページ、SNSなどをただくるくる開いてみて、閉じて、またスマホを置いて。ケータイゲームにも飽きてしまってぼーっと途方にくれる。

“太ってしまうから”甘いものを食べてはいけない、という現実にも魂が抜けるような苦しみを感じる。

(どうしたんだろう。数週間前まではもう少し前向きに毎日に迎えたに。暇な時間に心を癒す術がわからなくなってダイエットも嫌になって鬱で鬱で仕方なんて…)


 思い返せば去年の3月も突然鬱になった。きっかけは出会い掲示板で知り合った男の子が恋人のような相手を見つけたというLINEからだった。その男の子は太っているわたしをかわいいと言ってくれ、わたしはその言葉に凄く癒されていた。…だから、男の子に恋人のような相手ができ、もう身体も繋がっていると聞いてどうしようなく無を感じた。


 去年は理由があった。だけど今年も3月半ばに鬱になるなんてね…。相変わらず恋人なんていない。そんなの気にしすぎても仕方ない。こっそり仕事先の社員さんにときめいてみたりして自分を癒してる。…内緒だけど。

今年は仕事だって順調なはずなんだ。だけど気づいたことは、障害者雇用にしてみて自分が障害者だということに焦点を置くようになったら、(えっ、こんな時にもう脳が疲れてるの?)(えっ、ちょっと冷たくされただけでもう不安になるの?)と今まで気づこうとしなかった自分の弱さ、障害が目に見えて分かり始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る