第二十八話

 直輝を含めた5人はクイーンビーのいる場所へと高速で向かっていく。クイーンビーに近づくにつれて、蜂のような小型種グリードに全身を包まれたLB-11が多数見えてくる。

 しかし直輝はそれらを無視して進む。すると勇理が、


「おい、助けないのか」

 駆けながら直輝に聞いた。


「今彼らを助けても奴らはしつこく取りつき続ける。本体からの命令がある限りな。だからさっさと本体を倒して全員解放させるほうが賢明だ」

 一見すると見捨てる行為。だがそれは合理的に判断した結果だった。


「…………」

 直輝の返答に今一つ納得できないという顔をする勇理。今すぐ引き返して助けに行きたい気持ちがあったようだが、直輝のやり方と自分のやり方を天秤にかけた結果、無視して進むことに決めた。


 邪魔な小型種、中型種グリードを跳ね除けながら5人が進んでいると、


「――ッ」

「――ッ!」


 前方からクイーンビーの取り巻きの小型種グリードが大きな群れで突進してきた。


「武器を盾にしてスピードを上げろッ!」

 直輝は叫ぶ。


 それに反応し、勇理たちはそれぞれ武器を前に出して盾のように構えた。その数秒後、小型種グリードの大きな群れと勇理たちが衝突した。止まることなく駆ける勇理たちの盾や機体に小型種グリードが激しくぶつかり、次々と取りついていく。


「ぐッ……」


 大量の小型種グリードが取りついたせいで重さを増す武器。勇理はそれが地面に着かないように持ち上げつつ、高速で駆ける。他の4人も同様に重くなる武器を盾として維持しながら駆けていった。


 そして勇理たち5人は何とかグリードの群れから脱出した。盾とした武器や機体の表面にはまだ小型種グリードが大量に張りついている。その時だ。


「武器を捨てろッ!」

 と、直輝が再び叫んだ。


 その直後、5人の武器や機体に張りついていたグリードが一斉に離れ、勇理と自衛隊員1名の全身を覆った。関節部にもグリードが張りついているせいで身動きがとれず、蠢く黒い塊となる2人。その内の1人である勇理は一瞬驚いたが、すぐに平静を取り戻し、


「俺から離れやがれッ! !」


 ブレイヴに張りついているグリードに向かって『強制命令』を行使した。次の瞬間、勇理の頭に重く鋭い痛みが走り、ブレイヴに張りついているグリードが一斉に離れる。そこで彼は間髪を入れずにバックステップで距離をとった。


「――ッ!」


 直後、突如として勇理の後方から一発の銃弾が飛来し、強制命令を行使したグリード群に直撃した。銃弾は爆裂してグリード群の約半数を殺し、生き残りも爆風によって吹き飛んでいく。


「危なかったわね」


 その銃弾を放ったのは麗だった。麗は勇理たちが何かを言う前に続けて銃弾を放つ。その銃弾はさきほど爆風によって吹き飛ばされ、集合した生き残りグリード群に直撃し、爆裂した。この一撃により生き残りグリード群の8割近くが絶命。もはや群として機能しなくなった。


「その人も剥がして」

 麗はそう言うと、今度は蠢く黒い塊となったもう1人に照準を合わせる。そうすると直輝が自衛隊員の元に向かい、黒く蠢く機体の表面を右手で触った。そして、


「散れ」


 と言い放ち強制命令を行使した。それによってLB-11を覆っていた小型種グリードが一斉に離れて散る。その瞬間、直輝はLB-11の右手を引っ張って素早く後退した。


「…………」

 離れて散った小型種グリードが再び集まるのを待つ麗。数秒後、グリードたちが再び集合して群れをなすと、


「――ッ」


 そこをめがけて狙撃。放たれた銃弾は当たり前のように直撃し半数近くを削り取る。麗はそこでさらに生き残りが再度集合するのを待つ。そうして生き残りが再度群れをなすと容赦なくもう一発放ち、群として機能させなくした。


「よし、もう大丈夫よ」

 一仕事終えた麗はもう安全だと2人に告げる。その言葉に直輝と勇理は、


「助かる」

「ふうー助かった」

 それぞれ礼を言った。


「お礼はいいから早く行って。今のあなたたちみたいな人を取り込まれないように引き剥がしてるけどきりがないのよ」

「分かった。では急ぐぞ」

 直輝は麗の言葉を受けて他の4人へ急かすように告げた。それから勇理たち5人は再びクイーンビーのいる場所へ、大急ぎで向かった。


 麗が前方にいる小型種グリードの群れを片っ端から撃っていくおかげで、勇理たち5人は何とか無事にクイーンビーの元へ辿り着くことができた。


 目の前にするクイーンビーはまさに女王という風格を漂わせ、周りに数多の配下を従えていた。その配下である小型種グリードたちは勇理たちを見るなり威嚇を始めた。顎を噛みあわせてガチガチと音を鳴らし、騒然たる高い羽音を響かせる。


「準備はいいか、日向」

「ええ、大丈夫」

「椎葉は」

「俺も大丈夫だ」

 直輝は2人に確認をとった後、後ろにいる自衛隊員3名にも同様に確認をとり、


「……よし行くぞ。気を抜くなよッ!」

 先陣を切った。他の4人もそれに続き、麗も照準をクイーンビーに合わせる。


 先頭の直輝はクイーンビーを守る配下の防御網に突っ込んでいく。途中でミヤビの全身を配下に覆われるが、強制命令を駆使して脱し、クイーンビーへ一気に迫った。そして、


「――ッ!」

 高く跳んでガンブレードをクイーンビーの下腹部を突き刺した。その一撃は浅く、コアからわずかにずれる。直後、暴れだしたクイーンビーによって直輝は武器ごと振り落とされた。


「――くッ」

 着地後、直輝が屈んだ状態で上にいるクイーンビーに銃撃しようとすると、


「――借りるぞッ!」

 その後ろから来た勇理が武器を捨てて直輝の背を踏み、高く跳躍した。跳躍した彼はクイーンビーの足をどうにか掴んでぶら下がり、根性でよじ登って片羽の根元を握った。そのせいでクイーンビーはバランスを崩してふらふらとし始める。


「こんッのッ!」

 空へ高く上り、体を揺らすクイーンビーに振り落とされないよう踏ん張る勇理。だがそれを邪魔するかのように配下の小型種グリードたちがブレイヴに張りつき、取り込みあるいは引きずり落とそうとする。


「あっちに行きやがれッ!」

 勇理は強制命令を行使してその配下たちを払いのける。しかし女王を守る配下は諦めず執拗に勇理へ張りつく。そのたび強制命令を使って払いのけるが、途中で、


「使いすぎよッ!」

 麗に強制命令の過度な使用を注意された。勇理はその声が聞こえたらしく、強制命令の行使をやめて蠢く黒い塊となる。視界が真っ暗となり耳には不快な羽音が騒々しく響く。


「……グググ……」

勇理はもう一方の羽を手探りで握りしめてクイーンビーから飛行能力を奪った。配下による重しと両羽を封じられたことでクイーンビーは上空から落下していく。


 それを見た直輝たちは落下地点を予測して先回りを始めた。麗は先回りする直輝たちを援護射撃でサポートする。

 先回りする途中で自衛隊員1名がやられて蠢く黒い塊となるが、麗はそれを無視して残りの3人を優先してサポートする。そうしてクイーンビーが直輝たちの予測した地点に落下しようとした時、


「よくやった」


 下で待っていた直輝が勇理に当たらないよう、ガンブレードをクイーンビーに突き刺した。その一撃は確かにコアの中心を貫き、絶命させる。力が抜けたように落ちてきた勇理は2人の自衛隊員が受け止めた。


「……ちょっとばかし疲れたぞ」

 受け止められた勇理は疲れ気味に言って地面に立った。強制命令を何度も使用したせいでかなりの疲労が溜まっているようだが、まだまだ元気そうだ。


 そんな勇理の横で直輝はクイーンビーが串刺しになっているガンブレードを勢いよく振るった。死骸となった蜂の女王が刀身から飛んでいき、近くの地面に転がった。

 クイーンビーが死んだことで、自衛隊の機体に取りついていた配下の小型種グリードらは一斉に離れ、混乱し始める。それでまだ取り込まれずにいた自衛隊員は九死に一生を得た。勇理たちの支援でついてきて、蠢く黒い塊となった自衛隊員も無事だったようだ。


「ほら、返すぞ」

「ん?」

 直輝は背負ったロングソードを手に取って持ち主である勇理に返した。


「あ、悪い。すっかり忘れてた」

 自分の武器を受け取った勇理は柄を握り直して、次の戦闘準備を整えた。


「もう1人が来たら次の戦地へ向かうぞ」

 直輝が言葉に自衛隊員2名と勇理は頷いて返事をした。


 そうして戦線復帰した自衛隊員が勇理たちの元に到着すると、5人は荒れる次の戦地へと向かっていった。

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