第二十七話
作戦会議が終了し、3人がパイロットスーツに着替えるべく立ち上がり始めた時、
ぐうー……。
何とも間抜けな音が鳴った。
「あ、悪い。俺だ」
片手で自分の腹部を触る勇理。さっきの音は勇理の腹が鳴る音だった。朝食を食べずに来たせいで、脳が空腹の信号を出したのだろう。
「なんだ椎葉、朝食とってないのか?」
直輝がそう聞くと、
「ああ。時間がなかったからな」
勇理は元気なさげに答えた。そうすると麗が、
「……仕方ないわね」
と言って自分の足元にある小さなバッグに手を突っ込み、ごそごそとし始めた。中から何かを掴むと手を持ち上げて、
「ほら、これでも食べてなさい」
その何かを勇理に差しだした。それは手一杯に握られた携帯食料。クッキータイプやゼリータイプなどがあった。
「お、いいのか。悪いな」
この際腹に入れば何でもいい、と勇理は麗から携帯食料を受け取った。その直後、勇理はさっそく携帯食料の封を開け、
「食いながら着替える」
と言って食べながら控室の出口へ向かった。あまりに緊張感がなく自由なその姿に、直輝はふっと笑い、麗は苦笑いした。
パイロットスーツに着替えた3人はリベリオンに搭乗し、地上へ向かった。地上に着くと3人は武装して射出リフトから降り、15体もの副司令個体がいる現場へ急いで向かった。
途中で遠距離射撃のために麗と分かれ、勇理と直輝はやっと現場に到着した。その現場は所々に前世紀の遺物を残す草原地帯。そこではすでに自衛隊がグリードたちと戦っており、戦場と化していた。
「行くぞ。遅れるな」
直輝は一言告げるや否や戦場に突入する。勇理も遅れずその後に続いた。2人は眼前に現れる小型種や中型種グリードをなぎ払いながら戦場を駆け、1番近くにいる大型種の副司令個体、識別名『スパイダー』の元に向かう。
そして辿り着くなり、
「――オラァァァッ!」
勇理がスパイダーの側腹部にロングソードを突き刺した。脚部ブースター全開で突っ込むように繰りだしたその攻撃は凄まじく、一撃でコア貫き破壊した。
識別名の通りクモのような姿をしたスパイダーは口から白い糸を撒き散らし、悶え苦しむように8本足をバタつかせる。それは数十秒ほど続き、勇理はその間ずっとロングソードを突き刺したままだった。
「……終わったか」
勇理は死骸を見下ろして一言。もう殺したことに対しては何も思わぬようだった。
「椎葉、次に行くぞ。もたもたするな」
勇理の近くで中型種グリードを殲滅していた直輝はそう言って次の副司令個体がいる戦地に向かっていく。
「ああ、分かった」
死骸からロングソードを引き抜き、勇理は直輝の後を追った。
次の戦地にいた副司令個体は識別名『ラビット』。スパイダーと同じで大型種グリードだが、体の表面を岩石が厚く覆っている。その岩石の皮膚はあちこちが焦げつき、剣や槍などが数本刺さっていた。
「オオオォォ―――ッ!」
勇理はラビットの元へさきほどと同じように突き進んでいく。見た目に似合わず素早いラビットはLB-11に乗った自衛隊員たちの攻撃を難なくかわしていた。そこで運よく攻撃を避けたラビットが勇理の目の前に現れる。チャンスだ。勇理はそう思い、
「――ラァッ!」
両手で握ったロングソードを思いっきりラビットに振り下ろした。
「――くッ」
しかしロングソードはラビットの側面を掠める。横に逃げたラビットを続く二撃目で仕留めようとするが、
「クソッ」
丸い尻尾の表面を削るだけで失敗に終わった。ラビットは攻撃を外した勇理を嘲笑うかの如く左右にステップを踏みながら逃げる。だがしかしその先には直輝がいた。
「…………」
直輝は右に左にステップを踏みながら迫りくる巨体の動きを見極め、
「――ッ」
見事その背に飛び乗った。直後、上からガンブレードを突き刺す。そうすると、
「ギギギギギッギギギッッッ」
ラビットは苦悶の悲鳴を上げて暴れ、走り回り始めた。そんな中でも直輝は振り落とされず冷静にガンブレードから銃弾を数発連射するも、ラビットが必死に体を揺すって抵抗するせいでコア破壊には至らなかった。それに直輝は、
「ッ」
小さく舌打ちしてガンブレードを押し込んでいく。そんな時だった。ラビットの進行方向から3機のLB-11がやってきて、暴れ走るラビットを受け止めた。さらにその3機はラビットが動かないようにその場で押さえ込む。
「手助け感謝する」
その一言の後、直輝は一気にガンブレードを押し込み、コアを貫いた。その瞬間、ラビットはピタリと動きを止めて、生命活動を停止させた。
「よし、次だ」
手助けしてくれた自衛隊員と喜びあうこともなく、直輝はラビットの死骸からガンブレードを引き抜いた。そして、
「行くぞ」
勇理にそう告げてから、次の戦地へと向かった。その後を勇理が追うと、さきほど手助けした3名の自衛隊員が支援すると言ってついてきた。
そうして勇理たち5人が次に訪れた戦地では麗が戦っていた。射撃中の麗はそれに気づいたらしく、
「――あら、こっちに来たのね。丁度良かったわ」
勇理と直輝にそう言った。
「戦況は?」
「まずまずね。1体は仕留めたけど、もう1体がやっかいだわ。前線で戦っている人たちも苦戦してるみたい」
戦況を聞く直輝に、麗は簡潔に答えた。その視線の先には麗たちが手こずる副司令個体『クイーンビー』がいた。クイーンビーは中型種グリードだが、周囲に蜂のような小型種グリードを膨大な数随伴している。
「そうか。ならばより一層注意しないといけないな」
直輝は返事をしながらクイーンビーのデータを管制室から受け取る。それからデータの確認を終えると、
「よし、行くぞ」
後ろにいる勇理と3人の自衛隊員に告げて、突撃を開始した。
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