第二十四話
「……ふうー……」
初の形状変化を終えた勇理。一息吐いた後、形状変化させて大型スナイパーライフルのようになった自分の武器を見た。多少荒い部分はあるものの、成功と言ってもいい出来だろう。
「おおッ! ほら見てみろッ! 完璧だろッ!」
勇理は喜びの声を上げて、形状変化させた自分の武器を直輝に見せつける。
「まあ、最初にしては上出来だな。今度はそれを空に向けて撃ってみろ」
「ん、ああ分かった」
勇理は上機嫌に右手を掲げ、澄み渡る青い空めがけて銃の引き金を……引いた。
「――ん、あれ?」
しかし銃弾は発射されず、空砲すら鳴らなかった。その後何度も引き金を引くが、何も起こらない。
「おい、これどうなってんだ? 成功したんじゃなかったのか?」
困惑した様子の勇理は右手を下ろして、直輝に助けを求める。そうすると直輝は勇理から自分の武器を取り戻して修正を施し、
「銃のような内部に複雑な構造を持つ物は、その構造を知っていないと使用することができない」
と答えながら武器を持つ右手を頭上に掲げて、銃の引き金を、引いた。次の瞬間、銃口から銃弾が勢いよく発射され、天高く飛んでいった。
「逆に剣や盾などの単純な構造の物は、比較的容易に生成でき、使用することができる」
続いて直輝は、頭上に掲げた右手を下ろしながら自分の武器を形状変化させ、元のガンブレードへと戻した。
「今の説明で分かったか?」
「……ああ、どうにかな。続けてくれ」
動きの入った説明を必死に見聞きし、何とか大要を理解したらしい勇理。返事をして直輝に練習の続きを催促した。
「そうか。なら次の練習に進むぞ。ここからが本番だ」
「え?」
本番という言葉に反応して勇理は思わず声を漏らした。
「今やったのは視覚情報を元に生成する基礎的な方法。次にするのは記憶情報を元に生成する実戦的な方法だ」
「……どういうことだ?」
勇理はよく分からないと首を傾げて直輝に問うた。それに直輝は、
「今から何も見ずに、己の記憶から形状変化させる練習をする」
分かりやすく言い直して答えた。
「……無理だろそんなの……」
「そう思うかもしれないが、練習すればできる。ちなみに俺は3回目、日向は2回目で成功させた」
直輝がそう言うと勇理はピクリと反応し、
「……なんだと。なら俺は1回でやってやろうじゃねえか」
強気にそう宣言した。やはり負けず嫌いなところがあるようだ。
「そうか。なら1回でやってみせろ。基本的な手順はさっきと同じだが、今度は頭の中に形状変化後のイメージを浮かべる。最初は目を閉じたほうがやりやすいだろう」
「…………」
静かに目を閉じて、頭の中に形状変化後のイメージを浮かべる勇理。そのイメージは霞んで曖昧だが、元々持っていたロングソードだと推測できる形状をしていた。
「イメージが確たるものになったら、自分の武器へ意識を集中させて強く念じろ。イメージ通りの形状なれ、と」
「…………」
勇理はイメージを確たるものにするため必死に思い浮かべるが、途中で別のイメージが割り込んできたり、霧散したりしてしまい、なかなか上手くいかない。それでも何とかイメージを明確にしようと、眉間にしわを寄せながら思い浮かべる。
「力むと余計にできないぞ。焦らずにゆっくりとやれ」
上手くいかない様子の勇理を見兼ねて、直輝は声をかけた。
目を閉じたままその声を聞いた勇理は、大きく、深呼吸して心を落ち着けた。それから雑念を払い、形状変化後のイメージのみをゆっくりと形にしていった。
「――ッ! !」
そしてついに、勇理の頭の中を重い鋭利な痛みが駆け抜け、形状変化が始まった。武器がボコボコと波打ち、白い閃光を上げながら形状を変えていく。その様はさきほどよりも激しいが、一向に形状が整う気配がない。やがて、途中の不完全な状態で停止した。
勇理は形状変化が成功したと思い、ゆっくりと目を開いた。しかし、
「……なッ」
そこには辛うじてロングソードのような形状を保っている自分の武器があった。その表面には形状変化中の気泡が残り、さらには溶けて固まったような不恰好な状態となっていた。とても成功とは呼べない出来である。
「も、もう一度だッ!」
勇理は意地になって目を閉じ、再度形状変化を行なった。目を閉じている間に勇理の武器は形状を変えていき、ほどなくして停止した。
「――どうだッ!」
今度こそは成功だろうと思い、勇理はカッと目を開いた。
「なッ……」
だが結果は変わらず失敗。むしろさっきより酷い状態となっている。
「どうしてだよ……」
悔しそうに呟く勇理。これで2回目に成功させた麗と並ぶことはできなくなった。
「誰しも得手不得手はある。落胆することはない」
直輝は頭を垂れて落胆する勇理を励ました後、
「さあ、練習を続けるぞ」
そう言って練習の再開を促した。
「……ああ、分かった」
勇理は何とか頭を切り替えて立ち直った。
そうして練習を再開し、直輝の指示の下、勇理は訓練に励んだ。
翌日。
勇理は学校の昼休みを抜けてリバースへ行き、訓練を行なった。訓練内容は昨日に引き続き形状変化の練習。結局今日も成功することはなかったが多少はコツを掴んだようだ。
「……あー……」
訓練を終えた勇理はゾンビのように足を引きずりながらロッカールームへ向かった。
ロッカールームに辿り着いた勇理は中央にある背もたれのない長方形のイスに座り、体調がある程度戻るまで休憩した。
そして体調が回復したら素早く着替え、ロッカールームを後にした。
勇理はリバース内の通路を疲れた足取りで歩く。その足が向かう先は出口のあるエントランスホールではなく、リバース内に複数設置された休憩室。どうやら喉が渇いているらしい。
そうして休憩室に到着すると、
「あー喉乾いたーッ!」
誰もいないつもりで声を上げて中に入った。
「うるさいわ」
すると休憩していた麗が煩わしそうに言った。勇理はその思わぬ言葉に、
「へっ?」
素っ頓狂な声を出して硬直した。
休憩室の内装は以前宮都と諸塚が言葉を交わしていた休憩室と同じで、簡素なテーブルとイスが数組に自販機が3つ置いてあるだけだった。
静かな休憩室、1人ぽつんとイスに座っている麗。テーブルの上にはホットココア入りの紙コップが1つ置いてあった。
「……日向?」
勇理は我に返り休憩している麗を見て言った。
「見れば分かるでしょ」
麗は顔を合わせずに返事し、ホットココアを一口飲んだ。
「あんたも訓練終わりか?」
「そうよ。訓練といっても、リベリオンに乗らない射撃訓練だけど」
「ふーん、そうなのか。訓練にも色々あるんだな」
勇理は自販機まで行ってスポーツドリンクを注文した。数秒で特大の紙コップに入ったスポーツドリンクが出てきてそれを受け取る。部活の癖でスポーツドリンクを一気に飲み干して紙コップをゴミ箱に捨てると、麗のほうへ向かった。
「……なんでそこに座るのよ。他にも席はいっぱいあるでしょ」
勇理が向かいの席に座ると、麗は鬱陶しげな表情で小言を言った。
「別にいいだろ」
しかし勇理は気にせず座り続ける。それに麗は諦めたようにため息をついた。
2人はそれから特に話すこともなく無言で休憩していた。勇理はぼーっと自販機のほうを見つめ、麗は時よりホットココアを飲む。
ふと勇理の脳裏にある疑問がよぎった。
「……そういや、普段あんたって何してんだ? 学校には行ってないんだろ?」
勇理は麗を見てその疑問を口にした。すると麗は、
「ずっとここで訓練してるわよ。たまに息抜きで下にも行くけど」
あっさりそう答えた。
「家には帰らないのか?」
麗の返答に心配そうな顔の勇理。
「私の家はここだから問題ないわ」
「ん?」
「……だから、ここ、リバースが私の家なの」
右手の人差し指でテーブルをトントンと叩いて言い直す麗。
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