第十五話
目的地は草原地帯の一角にある広い荒野のようなところだった。到着した勇理たちがそこで身を潜めていると、後ろから続々と自衛隊員がやってきた。その数はおよそ30。残りは勇理たちが突っ切ったグリードの群れと戦っているのだろう。
「……なんか昨日と違って頼もしいな」
勇理は集まってきた自衛隊員を見てぽつりと呟いた。
「昨日は俺たちだけだったからな。これからは一緒に戦う機会もかなり増えるだろう」
「頼もしいからって油断しないことね」
勇理の呟きを受けて直輝と麗が返事をした。
それから数分後。直輝の元に今回協力してくれる自衛隊の部隊長から連絡が入った。
「……よし。あちらのほうは準備が整ったようだな。あとは俺たちが出れば作戦開始となる。準備はいいか」
直輝は勇理と麗へそう告げた。
「ああ」
「ええ、大丈夫よ」
肯定の返事をした勇理と麗。それを聞いた直輝は、
「……それでは、作戦開始だ」
静かに強く、作戦開始を告げた。直後、直輝と勇理は脚部ブースターをつけて突撃を開始。麗も脚部ブースターをつけ、援護射撃をするために離れた場所へ向かった。勇理と直輝に続いて自衛隊員たちも突撃を開始する。
「椎葉ッ、まずは確実に1体を仕留めるぞッ!」
「分かったッ!」
そう言葉を交わした勇理と直輝は2体いる司令個体のうち、まずは近くにいるウルフ2を目指して向かった。
途中で取り巻きグリードの群れの中へ突入する2人。さっきのように眼前の敵だけを攻撃していきながら、ウルフ2がいる場所を目指していった。
「――よし、俺が背後に回る。椎葉は注意を引きつけてくれ」
司令個体の元へ辿り着いた途端、直輝はそう言って勇理からスッと離れていった。
「任せろッ!」
勇理は威勢よく返事をして目の前にいるウルフ2に突進していった。
獰猛な目つきで硬質な毛皮を身に纏うウルフ2。地面から頭頂部までの高さはゼロワンの全長ほどあった。
ウルフ2は勇理の姿に気づくと鋭い歯を剥きだしにした。それは威嚇でもあり食らってやるという意思表示でもあった。
「――オラァッ!」
勇理はウルフ2の頭頂部へ両手で握ったロングソードを振り下ろす。しかし難なくかわされて、左肩に噛みつかれた。
装甲がミシミシと苦しい音を上げていく中、勇理は振り払うどころかウルフ2の首元を逃がさないようにしっかりと掴んだ。
「今だッ!」
勇理がそう言った次の瞬間、ウルフ2の後方から直輝が飛びだした。驚くべき速さで動けないウルフ2の背中に飛び乗ると、上からコアめがけてガンブレードを突き刺した。ウルフ2は雄叫びに近い悲鳴を上げて暴れ始める。
そんなウルフ2に直輝は無言で止めと言わんばかりに銃を連射。コアは完全に破壊されて暴れていたウルフ2はピタリと動きを止めた。
勇理が手を放すと、ウルフ2は力なく横に倒れ始める。直輝は死体からガンブレードを引き抜いて背中から飛び降り、
「……引きつけるだけで十分だと言ったはずだが」
勇理に向かって低い口調で言った。それを聞いた勇理は、
「こっちのほうが早いし、確実だろ」
気にする様子もなくあっさりと答えた。
「……確かにそうだが、一歩間違えればあっさり死んでいたぞ」
「そんなの分かってるさ。でも、元より命張ってんだ。これくらいどうってことないだろ」
「…………」
平然と答えた勇理に直輝は沈黙した。その沈黙は数秒ほどで終わり、
「手段が残っているのに易々と自己犠牲に走るな。これは命令だ、分かったな」
勇理に向けて強い口調で命令した。命令と聞いた勇理は不満そうな表情を浮かべ、
「……分かったよ」
渋々と納得して答えた。さすがの勇理も命令に逆らうのはまずいと思ったようだ。
「よし、ではウルフ1の元へ向かうぞ。ついてこい」
直輝は勇理が納得したのを確認すると、ウルフ1の元へ向かった。勇理も再び気を引き締めてその後を追っていった。
一直線に向かう勇理たちの目には死屍累々となったグリードや勇ましく戦っている自衛隊員が映っている。機体に差はあれどパイロットの腕は一流。その辺のグリードでは太刀打ちできない強さだった。
「……すげえ……」
その光景を見て思わず言葉を漏らした勇理。それは死屍累々となっているグリードを見ての驚きでもあり、自衛隊員たちに対する感嘆でもあった。勇理がそんな風に左右へ視線を向けてよそ見していると、
「椎葉、急ぐぞ」
直輝がそう言って速度を上げた。勇理は素早く視線を前に戻し、
「あ、ああ、分かった」
自分も速度を上げて急ぐ直輝の後を追った。
そうして勇理たちがウルフ1の近くまで辿り着くと、
「遅いわよ、2人とも」
すでにウルフ1と交戦中の麗からお叱りの通信が入った。
「すまない。今の状況はどうなってる」
「後方で別の群れと戦っていた自衛隊員も参加して交戦中よ」
そう直輝に返答した麗は今まさにウルフ1へ向けて銃弾を放った。空を切るようにして飛ぶその銃弾はウルフ1のコアめがけて飛んでいき、
「……ッ」
直前で別のグリードによって阻まれた。
麗の銃弾を阻んだその中型種グリードは砕け散って地面に落ちた。それを見て麗は悔しそうな表情を浮かべ、
「……ウルフ1は取り巻きを盾に使ってるわ。気をつけて」
勇理と直輝に向けて言った。その表情からは何度も阻止されたということが読み取れる。
「分かった。それならまずは盾をどうにかしないといけないな」
「……どうすんだ?」
「一気に接近する。懐へ入ってしまえば盾も使えないだろう」
直輝は勇理にそう答えた後、作戦内容を簡潔に説明した。勇理と麗は真剣にそれを聞いて頭に叩き込んだ。そして、
「……よし、では行くぞ」
直輝が言ったその合図で3人は一斉に行動を開始した。
まず先に勇理が飛びだし、ウルフ1の元へ向かう。その間に直輝は遠回りしてウルフ1の背後へと回り込んでいく。麗は道を切り開くように、勇理の前方にいる取り巻きグリードを次々と撃ち抜き、殺していった。
「オラオラオラァッ!」
麗の手から免れたグリードを力任せに処理して前進し続ける勇理。ウルフ1の近くでは自衛隊員たちが戦っていたが、盾の妨害にあってなかなか近づけず苦戦していた。
そんな中を突き進んでいき、ウルフ1の目前まで迫ったところで、
「――ッ!」
勇理の前に3体の中型種グリードが現れた。それを見た麗は一旦射撃をやめ、ウルフ1に照準を合わせた。
「邪魔くせえッ!」
勇理はまず近くの2体をなぎ払い、もう1体のコアに両手で握ったロングソードを突き刺した。素早く引き抜いて本丸に目を向け、体を捻り遠心力を使ってウルフ1の頭上へロングソードを振り下ろした。
「――クッ」
惜しくも寸前でかわされ、ウルフ1がバックステップで距離をとろうとした次の瞬間、直輝が飛びだし、麗が撃ち込んだ。
まず先に麗の放った銃弾がウルフ1に命中。硬質な毛皮を貫き、肉を抉って進み、コアの三分の一を削り取る。
「――ッ」
続けて背後から迫る直輝がウルフ1のコアめがけてガンブレードを突き刺した。
ガンブレードはウルフ1の横腹から斜めに突き刺さっており刃先はコアを確かに貫いていた。ウルフ1は勇理たちの怒涛の攻撃にほとんど悲鳴を上げることなく、事切れた。
「……これであとは残党の殲滅だけだな」
そう言って直輝はウルフ1の死骸からガンブレードを引き抜く。それから部隊長に司令個体討伐完了の報告をした。
報告が終わった直輝は、
「今度は殲滅戦だ。日向はそのまま狙撃を頼む」
勇理と麗に向けて言った。
「分かったわ」
狙撃をしながら返事をする麗。勇理はあからさまに面倒そうな表情を浮かべた。
「……では、残党の殲滅開始だ。椎葉は俺についてこい」
直輝はそう告げて殲滅へと向かった。勇理は右手に持ったロングソードを担いでその後を追った。
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