第十二話
「詰めが甘いな」
その時、突如として直輝が現れ、そのグリードのコアを横からガンブレードで貫いた。
そのグリードは再び甲高い悲鳴を上げると害虫のように激しくのたうち回って動きを止めた。
「……し、死んだのか……?」
恐怖から解放された勇理は尻餅をついて直輝にそう聞いた。
「ああ、今度は死んだ」
直輝は勇理の問いにそう答えた。勇理はその言葉に心から安堵する。
「コアへの傷が浅い場合はさっきのように再生する。気をつけろ」
直輝は言いながら土塊となったそのグリードの腹部に手を突っ込み、砕けたコアを取りだした。ミヤビの掌ほどもあるそれを見て、勇理は怪訝な表情をする。
「おい、そんなもん取りだしてどうするんだよ」
「持ち帰る」
「な、何言ってんだッ! もしも再生を始めたらどうするんだよッ!」
勇理はどうにか思い止まらせようとする。
「安心しろ。完全に死んだ……ということになっている」
「おいッ! やっぱり危ないんじゃねえかッ!」
勇理は後半言葉を濁した直輝を問い詰める。すると直輝はやれやれといった表情を浮かべて口を開いた。
「こいつらに死という概念があるのか分かっていないだけだ。とりあえず数十分ほどしてゼリー状の液体になれば、まず動くことはない。だから心配するな。……それに、これにはたとえ危険を冒してでも、持ち帰る価値があるんだ」
「……どういうことだ?」
意味深な言葉に疑問を抱いた勇理は眉を寄せた。
「これは上手く活用すれば何にでも変化する万能物質なんだ。願えば金にでも銀にでもなるという」
「なッ……」
砕けたコアは人類の未来のために活用されていた。その事実は人々の欲望をかきたててしまうが故に知る者は少ない。世界にはそれを悪用している輩もいるという。
「何にでも変化する、は少し言いすぎたな。人間の知りうるものなら大体は変化できる」
勇理が驚いて沈黙している中、直輝は発言を言い直してミヤビの右腰付近にある収納ポケットに砕けたコアを入れた。そして、
「よし、残党を殲滅しに行くぞ。日向は今から送るルートを通って俺たちと合流しろ」
直輝は頭を切り替えて次の指示を出した。
「分かった。今から向かうわ」
麗は射撃をやめて自動展開式の大型スナイパーライフルを片づけた。その間も勇理は驚きから覚めずに沈黙したままだった。
「椎葉、聞いてるか?」
「……あ、ああ。聞いてるよ」
直輝が確認をとると、勇理は驚きから覚めたように返事をした。
「なら、さっさと立ち上がって俺についてこい」
手を差し伸べることなく直輝は来た道を戻るようにして駆けていった。慌てて勇理も立ち上がりその後を追っていった。
麗と合流し残党の殲滅を開始した勇理が目にしたのは混乱状態に陥り動きが鈍くなったグリードたちだった。
「これは……何が起こってるんだ……?」。
「人間で言う司令官を失ったからだ。さっき俺とお前が倒したあいつは司令個体と言って複数のグリードを指揮・統率して動いている。……本来ならば、司令個体を優先して倒すのだが、今回はお前の実力を見るためにあえてそうしなかった」
「……おいおい。実力を見るって下手したら死んでたぞ」
「ええ、本当なら死んでたわよ」
身震いする勇理に麗はマシンガンを乱射しながら言った。麗に撃たれたグリードたちはコアどころか体中蜂の巣となっている。
「今日は運良く司令個体が1体だったから良かったけど、いつもはこうはいかないわ。だからもっと覚悟を持って常に気を引き締めなさい」
「……なんか上から目線だな」
「なっ……ここでは私が先輩なのよ。後輩のあなたにそんなこと言われたくないわ」
勇理がぽつりと漏らした言葉に反応し、麗は不機嫌そうな顔をした。
「先輩って言ったって、俺より年下じゃねーか」
馬鹿馬鹿しいとため息をつく勇理。
「……いい? ここに入った以上、あなたより経験がある私が先輩なの。年齢は関係ないわ」
やはりと言うべきか麗は反応した。諭すような口調で眉をピクピクと動かし、銃を持つ手にはより一層力が加わる。その様子から苛立っていることは明らかだった。
勇理は声の雰囲気から麗の苛立ちを感じ取り、仕方がないという表情をした後、
「……へいへい、分かりましたよ。先輩」
妥協し降参したように言った。しかし、
「ちゃんと聞きなさいッ!」
勇理の思いとは裏腹に麗の怒りが爆発した。どうやら言い方がお気に召さなかったらしい。そのことに勇理は気づいておらず困惑した表情を浮かべている。
「あなたねッ! さっきから」
「そこまでにしておけ」
立腹した麗の言葉を遮って直輝が仲裁に入った。すると麗は口を閉じ反省するような表情を浮かべた。勇理は勇理で気まずそうな顔をしている。
直輝は2人が平静を取り戻したと判断すると、
「さっさと片づけて帰還するぞ」
そう言ってグリードの殲滅速度を上げた。
勇理と麗も再び気を引き締め、次々とグリードを殲滅していった。
勇理たちが残党グリードを殲滅している真っ直中、リバースの管制室では司令官の宮都が立ち上がってガッツポーズをしていた。隣には諸塚が立っており、2人とも中央の大型スクリーンを見ている。
そこに映しだされていたのは勇理たちがグリードを殲滅していく様子。
「……少し危なげでしたが、一応は合格ラインですね」
諸塚は隣の宮都に聞こえるように言った。その表情からは安堵と納得が感じられる。
「確かに私も最後は肝を冷やしたよ。でもこれでやっと2人の負担が減り、陣形としてもバランスがとれるな」
「はい。……ですが正直、勝手に突っ込んで自滅すると思っていました、彼は」
「はははっ。私はそうは思っていなかったよ。なんたって私が考案したデザインの良さを見抜いたんだからね」
諸塚の漏らした本音に笑って答える宮都。あまりに根拠に乏しいその答えに諸塚は思わず苦笑いをした。
「そうだ、イライシャ。君はどう思ったかね」
宮都はすぐ近くの副司令官席に座っているイライシャに話しかけた。イライシャは宮都のほうを向いて口を開く。
「私……ですか。そうですね。思ったよりは戦えるな、とは思いました。ですが、前にも言った通り、諸刃の剣と言うべき面が見え隠れしていたので注意すべきかと。総評としては、今後に期待、といったところでしょうか」
あくまで冷静に答えるイライシャ。宮都は納得するように何度も頷くと、再び勇理たちが映っている中央の大型スクリーンを見た。
そこには残党グリードの殲滅をほとんど終えた勇理たちが映しだされていた。
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