第十一話

 2体目のグリードを殺した勇理は直輝のほうを見た。


 そこには直輝の戦う姿があった。次々と襲いかかるグリードを舞うように片づけていく戦人。圧倒的な力で近づくもの全てを斬り裂き、死角から攻め入る愚か者には銃弾の手向けを。癖が強すぎて誰も使わない武器ガンブレードを彼は完全に使いこなしていた。


「…………」


 その光景に見惚れていた勇理だったが、近づく足音で我に返った。振り向きざまにロングソードを振るい、近づいてきたグリードたちをなぎ倒す。その中で生き残り再生を始めようとするグリードもいたが、勇理はそれを無視して走りだした。


 勇理が向かう先は群れの奥にいる大型種の人型グリード。


 道中で襲いかかってくる大量のグリードをなぎ払いながら進んでいると、


「――ッ!」


 勇理の前方にいた中型種のグリードたちが次々と倒れていった。その様子に驚いて彼は辺りをきょろきょろと見回した。そうすると、


「突っ立ってないで早く行きなさい」


 麗が苛立った声で言った。彼女は2人のいる場所からかなり離れた見通しの良い高台にいた。


「今のはあんたがやったのか?」

「そうよ。敵じゃないから心配せずに早く行って。死んでも知らないわよ」


 縁起でもない言葉に勇理は思わず肩をすくめ、すぐに気を引き締めると再び目標のグリードがいる場所へと向かった。


 麗は勇理の前方にいる中型種グリードのコアを正確に撃ち抜き、銃弾を地面に着弾させて烈風を起こし小型種グリードをまとめて吹き飛ばしていく。


 そうして道を作る麗に導かれ、勇理はついに目標のグリードの前に辿り着いた。


 改めて見るそのグリードはゼロワンよりも少し大きい。顔には黒くぽっかりと開いた目と口らしき部分があった。体は土で構成されており、表面には苔や草がびっしりと生えている。


 勇理が前に立っても、そのグリードはじっとしているだけで何もしようとしない。それを見て不思議に思った勇理は考えた。単に動かないだけなのかそれとも罠なのか、と。


「……何もしないってんなら、こっちから行かせてもらうぞ」


 考えた結果、先制攻撃を仕掛けることに決めた勇理。体勢を前屈みにした直後、一気に飛びだし、そのグリードの目前へと迫った。目で捉えたコアの位置めがけ、両手で持ったロングソードを左から右へ勢いよく振るう。しかし、


「なッ……」


 そのグリードは見た目に反する素早さでしゃがみ、攻撃を避けた。


「こんの……ッ」


 勇理は虚しく空を斬ったそれを止めずに、今度はその頭上めがけて振り下ろす。だがしかし斬ったのは右手首から先だけで本体は身をかわして横へと逃げた。


 その様に勇理は悔しそうに舌を打つ。


 横へ逃げて少し距離をとったそのグリードは失った右手の再生を始めた。切断面はボコボコと波打ち、見る見るうちに再生していく。


 数秒ほどで完全に再生し、新しく右手を生やしたそのグリードは、


「――なッ」


 右手を大きく伸ばし、構えていた勇理のロングソードを掴んだ。放そうとせずに自分のほうへ持っていこうと凄まじい力で引っ張り始める。


「……放し……やがれ……ッ」


 そのグリードの元へ武器ごとじりじりと引きずられていく勇理。足で踏ん張って止めようとするも地面を削るばかりで効果はない。


 それどころか途中でもう一方の手を伸ばしてさらに力を加えてきた。


「……グゥゥゥ……」


 さらに強くなった引っ張る力に、勇理は武器を失うまいと歯を食いしばって抵抗を続ける。続けるがその甲斐なく引きずられていく。


そうしてとうとう勇理が敵の目前まで来たところで、


「――ッ!」


 そのグリードは両手を持ち上げた。武器ごと宙に浮かんだ勇理は柄から手を離さずに宙吊り姿勢となる。


 それから、そのグリードは顔に黒くぽっかりと開いた口と思われる部分を大きく開けて武器を食べ始めた。咀嚼音はなく刃先から飲み込むように食べていく。


「なッ……」


 その光景に勇理は言葉を失い、驚きではなく焦りの表情を浮かべた。このままだと全部食われる。勇理はそう思い、ロングソードの柄から手を離して地に降りて、


「……俺の剣を、返しやがれッ!」


 そのグリードめがけて突進し、体当たりをした。


 体当たりされたそのグリードは大きくよろけて口からロングソードを吐きだした。勇理はすかさず宙に浮いたそれの刃の部分を右手で掴み、バックステップで距離をとった。


 取り戻したロングソードを見ると刀身の三分の一が失われており、切断面には溶けた跡があった。そんなロングソードを勇理は持ち直し、両手で柄を握って構えた後、よろけた状態から回復したそのグリードを視界に入れて、これからどう攻撃するかを考え始めた。


「――ッ!」


 すると勇理から見て左から1発の銃弾が突如として飛来した。銃弾はそのグリードの右肩に直撃。土の破片が飛び散り、肩から右腕が崩れ落ちていった。


 その様を勇理が呆然として見ていると、


「何やってるの、早く決めなさい」

 麗が早い口調で言った。それと同時に麗はもう1発銃弾を撃ち込み、今度は頭部に命中させる。頭部は弾け飛び、体が再び大きくよろけた。


 勇理は彼女がチャンスを作ってくれたのだと理解し返事もなく走りだした。リーチの短くなった武器を手に頭部も右腕もないそのグリードへ止めを刺しにいく。


 よろけた状態から回復しようとしているそのグリードの目前に迫ると次の刹那、そのグリードのコアがある腹部めがけて、


「ラァァァッ!」


 真っ直ぐロングソードを突き刺した。逃げないように足を踏みつけてコアまで届けと力ずくで押し込んでいく。


「……ウウウゥゥゥ……」


 歯を噛みしめて獣のような声を上げる勇理。さらに力を加えてロングソードを捻じ込んでいくと……刃先がコアに到達した。そのグリードは甲高い悲鳴を上げるが、力を抜かずにコアの上部を削り取っていく。


 最初は抵抗していたそのグリードも徐々に動きが鈍くなり……やがて沈黙した。


 勇理はその様子を見て死んだと判断し、ふっと気を抜いた。その状態でロングソードを引き抜こうとすると、


「まだよッ!」


 麗が強い口調で言った。次の瞬間、


「――ッ!」


 殺したはずのそのグリードが動きだした。胸から腹まで左右に大きく開いて、勇理を取り込もうと襲いかかってくる。油断していた勇理は目前に迫る恐怖からとっさに逃げることができなかった。ああ、死ぬ。勇理はそう思い、死を覚悟する。

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