第十話
イライシャはアメリカのかつてオクラホマと呼ばれた州出身の軍人で歳は宮都よりも少し下。死線をくぐってきたと思わせる精悍な容貌をしており、服の上から見ても分かるほどに屈強な体つきをしていた。
「そんなものか……」
「はい。彼の様子を見る限り、戦いから生還するために必要な恐怖心を抑える術を持っているようですし、度胸や決断力もあるほうに見える」
イライシャはそこで一度言葉を切り、目を閉じてから続きを話し始めた。
「ですが、あのタイプは折れると脆く崩れやすい上にトラウマを想起しやすい。戦闘中の思考停止がチームワークを乱し、死を招く以上、彼は諸刃の剣とも言えるでしょう」
「……少し、早すぎたか」
ぽつりと後悔を漏らした宮都。それを聞いてイライシャは閉じた目を開いた。
「いえ。訓練期間を多少延ばしたところで所詮付け焼刃にすぎません。それに今回も彼らにはバックアップを頼んでいます。これで死ぬようならば彼もまた……」
「…………」
沈黙する宮都とイライシャ。その2人の沈黙はしばらく……続いた。
途中で日高と別れ、勇理は1人でロッカールームへ向かった。
慣れた手つきでパイロットスーツに着替えた勇理は案内板を頼りにリベリオンのある第三格納庫へと向かった。
第三格納庫へ到着した勇理が中に入ると、そこには直輝の姿があった。
「来たか。急いで準備しろ。話はそれからだ」
勇理は頷く。それから2人は急いで各々のリベリオンに乗り込んだ。
「――接続開始」
慣れた様子でさっと神経接続まで済ませた勇理。すると、
「これで全員揃ったか。では、これより俺たちはグリード討伐へと赴く。作戦内容は俺と日向が小型種、中型種のグリードを蹴散らし、椎葉に映像で見たであろう大型種の人型グリードを倒してもらう。初陣だな」
直輝は落ち着いた声で作戦内容を告げた。その内容に勇理は驚きの表情を浮かべる。
「え、いきなり俺があんなでかいのを相手するのかよ」
「……前衛ならば一度に2体以上の大型種を相手することもある。こんなところで挫けていてはこの先務まらないぞ」
自分が思った現実よりもさらに過酷な現実を突きつけられた勇理は一瞬、頭が真っ白になり決意が揺らいだ。しかし、
「……ああ、いいさ。やってやるよ。1体だろうが2体だろうが、まとめてぶち殺してやるぜ」
いちいち考えても仕方がないとすぐに立ち直った勇理は燃えたぎる復讐の炎で自身を奮い立たせた。
「椎葉。その意気で結構だが、勝手に突っ走らずに俺の命令は絶対に聞け。分かったな」
「ああ、分かってる」
「ならいい。日向も準備はいいか」
「大丈夫」
「よし、ならば出陣だ。全員、気を抜くなよ」
2人に確認をとった直輝は管制室に準備の完了を告げた。
それが合図となり、リベリオン3機の下の地面は動きだした。機体の前方へ向かってベルトコンベアのように動いていく。
射出リフトに着いたリベリオン3機は跪いた体勢で両手両足を固定された。続いて今度はそれぞれのリフトにリベリオンの使う武器が運ばれてきた。
勇理のところへ運ばれてきた武器は幅広で厚い両刃のロングソード。ゼロワンの足から腰までの長さだ。
直輝のところへ運ばれてきた武器は銃と剣の機能を併せ持ったガンブレード。長さは勇理のロングソードと同じくらいだ。
最後、麗のところへ運ばれてきた武器はショットガンとマシンガン。それと射撃時には銃身が長くなる自動展開式の大型スナイパーライフルだった。
武器は機体と一緒にそれぞれのリフトへと固定される。そして、
『全機体並びに武装を射出リフトに固定完了。射出シークエンスに入ります。……5、4、3、2、1、射出』
管制室の女性オペレーターが言った直後、武器とリベリオンを乗せたリフトは勢いよく地上へ射出された。
数秒後。地上に着いた勇理たちは武装して射出リフトから降りた。
勇理はロングソードを背負い、直輝もガンブレードを背負った。麗は自動展開式の大型スナイパーライフルを背負い、右腰やや後ろにショットガン、左腰やや後ろにマシンガンを装備していた。
射出リフトが帰宅するように下へ戻っていくのを確認した直輝は、
「行くぞ。遅れず俺についてこい」
脚部ブースターをつけて滑るように高速で前方の森林地帯へ向かっていった。勇理と麗も脚部ブースターをつけて直輝の後を追う。
勇理は1日しか脚部ブースターの訓練をしていないせいか非常にぎこちなかった。
生い茂る樹木の合間を高速で駆け抜け、時には踏み倒しなぎ倒しながら勇理たちは目標とするグリードの近くまでやってきた。周りには昔田園が広がっていた名残があり、視界が開けている。しかしグリードたちは付近で隠れている勇理たちにまだ気づいている様子はない。
「……椎葉、グリードの倒し方は覚えているよな」
「ああ。コアってやつをぶっ壊せばいいんだろ」
「そうだ。あいつらはコアを破壊しないと再生する。だから昨日教えた方法で確実にコアを破壊しろ。お前が戦うあのグリードだが、最初から一撃で仕留めろとは言わない。三撃以内で仕留めろ。それ以上は警戒されてやっかいだ」
「ほんと、無茶ばっかだな。まあやってやるさ」
訓練時から直輝が話す内容は無茶なものばかり。それでも勇理は必死に食らいついてそれらを遂げてきたのだ。
「……よし。それでは初動の再確認だ。俺と椎葉は敵陣へ突入し戦闘に入る。日向は所定の位置に向かい、そこから敵を狙撃。……問題がなければ作戦開始へと移行する」
「俺は問題ない」
「問題ないわ」
2人の返事を聞いた直輝はより一層気の引き締まった顔になった。
「そうか。では……」
直輝は途中で言葉を切って一呼吸置いた後、
「作戦開始だ」
始まりの合図を告げた。
勇理たちはその合図で一斉に動きだす。勇理と直輝は敵陣へと突入し、日向は狙撃ポイントへ向かった。本来なら狙撃手は予め所定の位置についておくべきなのだが、今回は地形的にどうしても敵の視界に入るので注意を逸らすために同時同地で作戦開始となった。
勇理と直輝が前傾姿勢で駆けながら目に力を入れると、突如として2人の視界に赤く塗り潰された丸がいくつも現れた。その赤い丸は全てグリードの体に付いており大きさは様々だ。
勇理たちがその状態で駆けていると予想通り途中でグリードたちに気づかれた。グリードたちは本能の赴くまま一斉に攻撃を仕掛けてくる。
勇理と直輝は足を止めることなく背負った武器を手に取りグリードの群れと接触した。
さっそく勇理に飛んで襲いかかってきた1体の中型種グリード。勇理はその体にある赤い点めがけて、
「オラァッ!」
両手で力強くロングソードを振り下ろした。
鳥の姿をしていたそのグリードは真っ二つとなって地面に落ちる。2つの肉塊と化したそれに再生する気配はない。
「よっしゃッ!」
「気を抜くなッ! 次が来るぞッ!」
初めてグリードを倒して喜ぶ勇理に直輝は戦いながら叱咤する。次の瞬間、
「ぐッ……」
勇理にもう1体の中型種グリードが飛びかかってきた。そのグリードは獣のような姿で鋭い牙を持っておりそれで食らおうとしていた。
「……放し……やがれッ!」
ロングソードを手放してそのグリードの首元を両手で掴み、力ずくで引き剥がしにかかる勇理。数十秒間格闘し、何とか引き剥がすとそのグリードを地面に叩きつけた。そしてすぐさまロングソードを拾い、
「オオオオォォォ―――――ッ!」
そのグリードの体にある赤い点を通過するよう斜めに斬り裂いた。一刀両断。グリードの体は切断され、断面から深い藍色をした何かが飛びだした。
それは真っ二つに砕けたグリードのコアだった。そう。赤い点はグリードのコアを示していたのだ。
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