第一話

 グリードが人類に宣戦布告をしてから約50年後。人類はグリードと戦い続けていた。

 ほとんどの国が超巨大地下都市を完成させ、人類は地上から地下へと生活拠点を移していた。

グリードの猛攻に一時は風前の灯火と思われた人類だったが、各地下都市を防衛して仮初の平和を維持しつつ、どうにか反撃を開始していた。




 日本。約300万人が暮らす『地下複合都市・カントー』の上から数えて第5階層目にある都市上層部。そこ住んでいる頭脳派というより肉体派な風貌の青年が今まさに学校から帰宅した。

 青年の名は椎葉勇理。元気が取り柄の18歳である。


「ただいまー」


 勇理が玄関のドアを開けてリビングへ向かうと、そこに彼の見知らぬ男がいた。その男は白衣を着ておりリビングのソファーに座っている。


 勇理がリビングへ入り兼ねていると、廊下の奥から勇理の叔母である美郷有希がやってきた。


「勇理君、おかえりなさい」

「ただいま……って、あの人は誰だ?」

「ああ、勇理君のお客様よ。なんでも、お役所から来た人だとか」

「……お役所の人が、俺に? 何の用だろ」

 怪訝な表情を浮かべる勇理。

「んー……とりあえず話を聞いてみたら?」

「それもそうか。んじゃ、ちょっと行ってきます」


 勇理はリビングに入り、白衣の男と対面した。白衣の男はぼさぼさ髪で不健康そうな青白い顔をしていた。


「……君が椎葉勇理君、ですか?」

気づいた白衣の男は問う。

「そうですけど」

「……ふむ」


 勇理が答えるや否や白衣の男は勇理を品定めするように見始めた。頭の天辺からつま先まで。体の隅々をじっくり見ていく。不快に感じた勇理が文句を言おうとした時、


「まぁ、合格」


 白衣の男は顔を上げて言った。


「……えっと、どういうことですか」

 状況が掴めない勇理は白衣の男に聞く。

「そのことについては外で話しますよ。ついてきてください」

 白衣の男は立ち上がり、玄関のほうへ歩いていった。


「おっと。その前にこれ、どうぞ」

 途中、白衣の男は振り向いて勇理に名刺を渡した。

「……地下複合都市・関東市庁すくすく研究課、諸塚進」

「はい、そうです」

 諸塚はにっこり笑うと勇理に背を向けて再び玄関のほうへ歩いていく。


 なんか胡散臭いな。勇理はそう思いながらも諸塚の後についていった。


 勇理が家の外に出るとすぐ近くに黒塗りの高級車が停まっていた。


「あれ、帰ってくる時はこんな車……」

「これに乗ってください」

 疑問に思う勇理を無視して諸塚は車の中に入るよう催促する。

「ここじゃ駄目なんですか?」

「ここで話してもいいですけど……君の家族に関することなのでね」

「なッ……」

 驚きの表情を見せる勇理。

「車の中は防音仕様ですので、怖がらずにどうぞ」

「…………」

 勇理は悩むような素振りをしばらく見せた後、

「分かりました」

 と言って車に乗り込んだ。後から諸塚が車に乗り込むと自動でドアが閉まった。


 車内は落ち着いた茶色で統一されていて爽やかな香水の香りがした。


「俺の家族に関することってなんですか」

 しんと静かな空間の中、勇理は諸塚に問う。


「……君の亡くなった弟に会わせてあげると言ったら……どうします?」

「――ッ! !」

 勇理はハッと息を呑むほど驚愕した。


「……俺の家族は2年前……」

 思わず言葉を漏らす勇理。それに諸塚は頷く。


「はい。確かにあなたの家族は2年前、グリードに食われて亡くなりました」

「どういうことだッ! 説明してくれッ!」

 勇理は言いながら諸塚に詰め寄る。


「落ち着いてください。その状態では説明もできませんよ」

 諸塚がそう言うと、勇理は口を閉じて座り直した。

「弟に会いたいですか?」

「ああ、もちろん会いたいさ。だけどその前に説明がほしい」

「説明するよりも、実際に会ったほうが早いですよ」

 諸塚は指をパチンと鳴らして、

「ここから1番近い超高層エレベーター帯へ向かってください」

 運転手のいない前の席に向かって言った。すると、


『かしこまりました。西超高層エレベーター帯へと向かいます』


 車に搭載されたカーナビゲーション装置から聞き取りやすい女性の声がした。同時に車も動きだす。


「10分ほどで到着しますので、外の景色でも楽しんでいてください」

 諸塚に言われて、勇理は窓越しに空を、地下都市の壁一面に映しだされた偽物の空を眺めた。


 諸塚と勇理を乗せた車は静かな住宅街から超高層エレベーター帯を中心とした活気溢れる繁華街へと進んでいく。


 そして約10分後。諸塚の言う通り、2人は西超高層エレベーター帯に到着した。

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