第4話 公園で会話
「首藤・・・さん?」
一万田はゴールデンウィーク最終日に、これっきり会うこともないだろうなと思っていた首藤さんにでくわした。なぜか上機嫌だ。
「アンタなにしよるん。」
「こないだはごめん。」
「なしアンタが謝るん。はつったの私やろ。」
首藤さんは一万田に平手打ちをしたのを少し気にしているようだった。
で、一万田は何をしているかと言うと昼からまたビールを飲んでいた。
昼下がりの誰もいない公園。
子供が遊びに来たら退散しようと思っていたのだが、誰も来ないので引き時を得られずダラダラとベンチに座っているのだ。
「いや、はつられるくらいは別にいいんや。警察しよったときは先輩とか犯罪者によう殴られよったけん。」
「私は乱暴な先輩とか犯罪者と同列なん。」
「そげんこた言ってねえ。」
悪解釈で意地悪なことを言ってはいるが首藤さんは終始笑顔なので、まあ冗談だろう。
いっぽう一万田も首藤さんの上機嫌にあてられ、ほろ酔いなのもあり機嫌が良い。
「ところで俺はこうして昼からビールを嗜みよるんやけど、首藤さんは何を嗜みよるん?」
「また映画でも嗜もうちおもうて、こうして歩くのを嗜みよる。」
この公園は駅までの近道で通るところだ。ハトの糞が凄いので小学生のときはハトフン公園と呼ばれていた。今はそれほどでもないものの、一万田もすこしばかりだが鳩に警戒しながらビールを飲んでいた。
「映画好きやな。なん観るん?トンネル脱出んやつ?」
「オッパイポロリのやつ。」
「あげなん観るんか。」
「アンタが観たがっちょったやつやろ。」
一万田はビールをぐいとあおり、飲み干してから「そげんこたねえ。」と返す。
「アンタはビール、私はオッパイポロリ映画。」
「女んシがオッパイポロリとか連呼すんな。」
「なんか、あんた東京におったわりには古ぃやんか。今はジェンダーフリーの世の中なんよ。」
「なんかそら、はしたねえ。」
あいにく一万田は東京に居た間、そういうインテリめいたことを言う人に会ったことがない。
「アンタと私のやりたいことの間を取って戦争映画やな。」
「え?」
「足して2で割ったらちょうど戦争映画やろ。」
「え?」
「どうせやることないんやろ。」
「ここでビール飲みよきてえ。」
「なんか、はしたねえ。アンタいい歳した大の男がこげんとこで昼からビールとか情けねえで!」
突然首藤さんが怒りだした。
「わかったちゃ、わかったちゃ。どうせ暇やし行くわ。」
首藤さんがにんまりする。怒ったり笑ったり忙しいやつだ、と一万田は思う。
「ついでにつきあわん?俺達」
「え?」
「首藤さんは映画に行きたい。俺はビールを飲みたい。」
「え?」
「間を取ってつきあわん?っち。」
一万田は首藤さんの真似をして冗談っぽく言った。
間を置いて首藤さん「アンタ、またはつらるんで。」
と、言ったものの「ええで。」と返す。
あ~あという顔をして
「酔っ払いに告られちもうた。」
一万田は我ながら何を言うのかとも驚いた。
先日職場の先輩に「その首藤さんちゅうの、お前に気があるやろ。100%そうやろ。どう考えてもそうやろ。はつられたんは、お前がつまらんこと言ったけんじゃ。」と10分くらいこんこんとたしなめられたのが大きく影響をしている。
すっかり酔いもさめた一万田、すっくとベンチから立って「行くぞ。」
さめた一万田、顔真っ赤の首藤さん。
顔真っ赤の首藤さんをみて一万田も顔が真っ赤になる。
「ジェンダーフリーとか言うんやったら首藤さんから言うてきてもよかったんやねえ?」
「なんか!いまさら男らしゅうねえな!」
首藤さんは顔を真っ赤にして言った。
怒って真っ赤なのか照れて真っ赤なのかはわからずじまいだった。
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