三学期
第44話 バレンタイン
2月14日と言えば世の中が少し騒がしくなる。
病院内でもそれは同じだった。
患者さんからいつもお世話になっている先生へ渡したり、患者どうしで渡したり、色んな光景を見た。
私は作ることは出来ない為お母さんにチョコを買ってきて欲しいと頼んだ。
そして力の入らない手を必死に動かし手紙を書いて袋の中へ入れた。
「春ちゃんって本当に春樹くんが好きなのね。」
「うん。だい、好き。」
私ははるきが来るのを病室で待っていると扉が開いた。
見えたのは春樹ではなく、桜木先生だった。
お母さんは先生にチョコを渡した。
「これ、この子からです。いつもありがとうございます。」
「ありがとうございます。春ちゃんも、ありがとう。」
「わたし、こそ。」
先生のチョコにはこっそり特別なものを入れている。分かってくれればいいけど。
「すみません、少し春ちゃんと二人で話してもよろしいですか?」
「わかりました。」
「すみません。すぐ終わりますので。」
お母さんが部屋を出ると先生は私のベッドの横に椅子を持ってきて座った。
「この間のライブのお礼、ちゃんと言えてなかったから、ありがとう。それと、僕の知り合いの音楽会社の人が、春ちゃんの歌を欲しいと言っているそうなんだ。どうする?歌を色んな人に聞いて欲しいって言うのは、君の作った歌なのか、それとも君の歌なのか、それを聞きたくて。」
「私は…。」
「ゆっくり考えて貰って大丈夫だよ。まだ時間はある。後悔しない答えを待ってる。春ちゃん、本当にありがとう。」
先生はそれだけ言ってすぐに出ていってしまた。
しばらく考えているとドアが開き春樹が来た。
「春。」
入る時必ず名前を呼んでくれる春樹を見るととても安心できた。
「お疲れ様。」
「ありがとう。春、これ、今日バレンタインだろ?」
「え、なんで。」
「最近はバレンタインに男がやるのも流行ってるらしいから、康太から聞いて初めて知ったけど、だから買ってきた。と言ってもチョコじゃないけど。」
康太が袋から取り出したのは私と春樹で初めてお揃いで買ったオーダーメイドのピックをネックレスにしたものだった。
でもなぜあるのか、このピックは2年前くらいに私が割ってしまった。
「これは、俺とお前の思い出のものだ。指輪でもいいけど、やっぱり俺たちはこれかなって。新しく同じものを作ってもらった。ほら。」
と言いながら春樹は自分の首に下げていた同じものを出して私にみせた。
「はるき、それ、かけて。」
私は春樹に自分にもつけて欲しいと頼んだ。
春樹はそっと首の後ろに手を回して付けてくれた。
「あり、がとう。」
とても嬉しかった。
覚えてれていることが何よりも。
お母さんはその様子を静かに見守ってくれていた。
私はお母さんに渡すようにお願いした。
「これ、私から。」
春樹は中を見ようとしていたが気づいたようで中身を出すのを辞めた。
「春、好きだ。」
春樹は力のない声でそう言ってくれた。
「私も。好き。」
2人で笑いあった。
考えていることは一緒だった。
「2つになったな、このピック。大事にするよ。ありがとう春。」
最高のバレンタインになっただろうか。
私は今までで1番のバレンタインだった。
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