第40話 クリスマス
約束の日の前日の夜、私は頭を殴るような鋭い痛みで目を覚ました。
声は出ず動くことすら出来ず1人ベットの上でもがいていた。
「もぅっ…明日、大事な、ひ…なの……に。」
そこで私は気を失った。
目を覚ますと白い天井が見えた。
横では規則正しいリズムでなる音が聞こえる。
手を動かそうとしたけど動かない。
全身が全く動かせなかった。
視線だけをそっと動かし辺りを見回すと、すぐ隣にお母さんがいた。
私の手を握ったまま寝ているようだった。
30分程たっただろうか、指先が少し動かせるようになった。
指先が動いたせいでお母さんが目を覚ました。
「春ちゃん!?分かる!?すぐに先生を呼ぶわ!」
お母さんはナースコールを押した。
すぐに桜木先生と看護師さんが1人来てこれまでの経緯を説明してくれた。
「春ちゃん、君は3日前に気を失ってここに運ばれたんだ。腫瘍はかなり大きくなって他の部位への転移も多く見つかった。そのうちのひとつが破裂して脳内で出血していた。かなり痛かったでしょ?そこはどうにかできたけど…その。」
先生が言葉に詰まった。
「クリ…スマ…ス…。」
出しづらい声を精一杯出して発した第一声はクリスマスだった。
せっかく春樹と楽しくデートできるチャンスだったのに、そう思うと悲しくて、悔しかった。
泣きそうになった時ドアが開いた。
「春!大丈夫か?」
「はるきぃぃ〜!」
涙が止まらなくなった。
はるきの名前を呼ぶ時だけはしっかりと声が出た。
動きづらい身体を必死に動かして手を伸ばす。
春樹はその手をしっかりと握ってくれた。
「春樹…、ごめん。」
「謝るな。お前は悪くない。また今度行けばいい。」
「ほんとに…ごめん。」
春樹は私の頭をずっと撫でてくれてた。
いつの間にか部屋には私たち二人だけしかいなかった。
しばらく泣いてスッキリしたら、今度は疲れて眠くなった。
「春、寝ていいぞ?眠いんだろ?」
「嫌だ…。」
「なんで?」
「目覚めないかもしれない。春樹に会えなくなるかもしれない。今は、春樹が居てくれる今はまだ、寝たく…ない。」
コクコクと頭を揺らしながら必死に眠気に耐える。
すると両頬を優しく包まれた。
「春、大丈夫。俺が絶対にお前を起こしてやる。寝る時も、起きる時も俺がいる。ずっと一緒だ。おやすみ。」
春樹はそう言っておでこに優しくキスをした。
「はる…き…。おやす…み。」
私は安心してそのまま眠った。
その時私は気づいていた。
春樹がキスをすると同時に私の左手を取り薬指に指輪をしてくれた事。
ありがとう。
最高のクリスマスだよ。
って言えなくてごめんなさい。
心の中ではたくさんの言葉が浮かんでいた。
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