第36話 生配信 3

真っ暗なステージ、前回の新曲から入る。


春樹のギターのソロ。

優しい音色が響く。


思い切り息を吸い歌い出す。


大きく響く声。


真っ直ぐと見た先には両親がいた。


まだ一曲目なのにお母さんは既に泣いていた。

お父さんは優しく微笑みながら見守っている。


観客は皆楽しそうにペンライトを振り、歌を一緒に歌っていた。


まだ1回しか歌ったこと無かったのに、みんな覚えてきてくれている。


楽しい──


私は楽しくて仕方がなかった。


目の前のモニターには生配信の動画に対するコメントが沢山流れていた。


『かっこいい!』


『うますぎる!』


『気がついたらコメント打つ手が止まってた…。』


今は批判のコメントは一切見えなかった。

そんなコメントよりも応援してくれてるコメントが私たちに元気をくれた。


伝えたい。


音楽は元気を与えると共に元気をくれるんだ。

こうやって巡り巡ってみんなが笑顔になって、嫌なことも、辛いことも、全部乗り越える力になるんだ。

現に、私はこの瞬間、何も考えずにただただ楽しんでいたのだ。


1曲目が終わりトークタイムに移る。


「皆さんこんばんは!ノーネームです!今日は初の試みでもある動画での生配信なのでグダグダになる部分もあるかもしれませんが最後まで一緒に楽しんでください!!」


私が拳を高く突き上げると会場にいた皆がそれに続いた。


それから数曲のカバーソングが終わりついに、今回のためだけに作った4人の新曲が始まる。


「今から歌う曲は、私たちの今までの全てが詰まった最後の曲です。聞いてください。桜道。」


そう、私たちが朝来る時に来たあの桜道、毎年必ず満開の時期に4人で笑いながら通ったあの道。


私は静かにギターを鳴らす。

結衣が合流して直ぐにアップテンポになる。

弦を押さえていた左手が少し痺れてきたが感覚はまだあったためそのまま続ける。

息を吸い歌い出す。


『ピンク色に染まる一本道、4人で並んで歩いた。何も言わずただ、静かに歩いた。でも分かっているよ、言いたい事も。今年の桜は去年より、さらに鮮やかに見えた気がした。来年もまた一緒に歩こう。みんなで笑いながらさ。きっと来年の方がもっと綺麗に見えるだろう。いつかまた一緒に歩こう、みんなでこの、桜道を。』


この歌詞の意味は、3人になら分かるはず。

私たちの未来が詰まっているこの歌詞。


曲が終わり歓声と拍手が鳴り止まない。

モニターのコメントも画面を覆い尽くすほど流れていた。


「わー、凄い!今1万人のもの観客がいるー!生配信の影響って凄いね!」


さっきからちらほらと携帯を触ってる観客が目に付いていたが、みんな私たちを広めてくれていたんだ。


「ありがとう。みんな、本当に、ありがとう。」


泣きそうになる。こんなにも応援してくれてる人がいた事に。


そして、そのまま軽くトークをした後にフォークロへバトンタッチになる。


予定だった。


「今回特別ゲストをお呼びしています!登場して頂きましょう!フォークロの皆さんです!」


舞台袖から歩いてくる3人の男性。

その中にオーナーの姿は無く、代わりに桜木先生が立っていた。


そして、何故か顔には傷があった。


私はマイクを近くにいた康太に渡し、桜木先生に駆け寄った。


観客は過去のスターの登場に大喜びで客席もステージから少し離れているため先生の顔の傷には気づいていないようだ。


「先生、どうしたのそれ。」


「んー、喧嘩かな。大丈夫。あの人ならきっとやってくれるよ。心配しないで。」


先生はそう言うとギターを抱えて持ち場に立つ。


私は康太からマイクを受け取りそのままMCを続けた。


「次は私たちバンドマンの大先輩であるフォークロの曲です。」


私たちはこの間10分の休憩に入る。


オーナーと先生の間に何があったかは知らないけど、私はただ信じてオーナーを待つしか無かった。


フォークロが二曲目に入った時、ギターの音が増えた。


オーナーのギターだ。

私たちは控え室を出て急いで舞台袖へと向かった。

そこから見えたのはもう若くはないけど、子供のようにはしゃいでいる大人の男が4人。

その姿は本当に楽しそうで、私たちは笑って見守った。


そのまま曲が終わり私たちへとバトンが戻ってくる。


これが最後の曲。

私のソロ曲。


約4分の歌に込めた思い。


私は胸を張って舞台へと踏み出す。










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