第34話 生配信 1

当日、私たちは朝早くから集まり、いつもの桜道を4人でゆっくり歩きながらライブハウスへと向かう。

結衣は康太と、私は春樹と手を繋いでそれぞれの時間を噛み締めながら歩いた。


みんな何も言わない。けど分かっている。


「ありがとう。」


私は3人に聞こえるようにそう言うと、3人は笑って何も言わなかった。


「私ね、あと4ヶ月で死ぬの。」


3人は何も言わずただ静かに話を聞いていた。


「今日で最後。みんな、頑張ろうね。」


私は下を向いて涙を堪えた。

涙が1粒頬を流れた時、春樹がそっと両手で私の顔を包んで上を向かせる。


春樹は何も言わない。でも分かった。

私はゆっくり目を閉じて唇に伝わった熱を脳裏に焼き付ける。


お互い何も言わなくても分かってる。


今日はきっと上手くいく。


それから1時間かけて会場へと向かった。


会場に着くとスタッフとフォークロの4人も既に来ていた。

集合時間まで1時間以上はある。


「おはよう春ちゃん。」


桜木先生が心配そうに駆け寄って来た。


「おはようございます。先生。」


「わかってるとは思うけど、無理だけはしないように。僕がいるうちはそんなことさせないけどね。」


「大丈夫ですよー!最近すごく調子が良くて、痺れもあんまりないんです!!」


「それは…。調子がいいなら良かったよ。」


何かを言おうとしてやめた先生は気づいたのだろう。

自分の体のことは自分が一番把握している。

分かっている。身体は悲鳴をあげているということは。


会場オープンは17時。配信は18時からだ。それまではリハと最終確認と練習。

機材の確認も念入りに行うらしく、顔見知ったスタッフが数人いたためみんなに挨拶して回った。


リハの時に久々にフォークロの歌を聴いたが、迫力はあの頃のままだった。


4人で感動してると私たちの番も直ぐに来て2曲ほど歌いリハは終わった。


フォークロの4人は私たちの演奏をすごく褒めてくれた。


そして各自練習を始め私たちは楽屋に引こもる。


「春、俺たちがカバーするから、好きに歌うんだぞ。」


春樹は私の頭を優しく撫でて練習を始めた。

撫でられた頭がとても暖かく口元がついにやける。


青春。


これが私の青春なのだ。

漫画で読んだような、友情、恋愛、衝突、葛藤。

私は今青春を謳歌している。


胸が高鳴るこの感覚は私が今まで体験したどの感覚よりも最高の瞬間になった。ライブ中でもなんでもない。今までのこの過程を経て来た今この瞬間こそが、私にとっての青春になった。






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