第27話 不戦敗
去年まで当たり前のように太陽の下を走ったり、踊ったりして楽しんでいた体育祭。
「体育祭!?ダメだよ!?ドクターストップ!自分でもわかってると思うけど激しい運動したら危ないからね。やりたいことはやっていいって言ったけど、こればかりは命の危険が高くなるから。」
「じゃあ、競技に参加しなかったら大丈夫?」
「うーん…。まぁ、激しい運動さえなければ…。」
桜木先生は困ったような顔をして渋々、体育祭の参加は許可してくれた。
ただ競技には出ないというのが条件だった。
「春は競技何にする?」
体育祭の係や競技決めの話を聞き流しながら仁美と話していたら仁美が同じ競技にしようと誘ってきた。
「私は今年は競技に参加できないんだよね〜。なんかこの前倒れたのが原因で念の為の安静って言われて。」
「え、それ大丈夫なやつ?」
「大丈夫。貧血が他の人より酷いだけだーって言われたし。」
先生には話して何とか体育祭自体には参加させてもらえることになったが、学校側からも条件を出された。
「だから、みんなを応援する時ずっとテントの中に居なきゃいけないんだけど、あと先生が常に隣にいるって…。ナニモデキナイ。」
「いや、安静って言われてんだからなにかしようとするな。」
私はすごく後悔した。
去年の体育祭の時はまた次があると思ってやりたかった応援団とか、やりたかった競技とか、とにかくやりたかったことを全て来年へと回してしまっていた。
なのにこんなことになろうとは…。
せめて、みんなと一緒に走ったりしたかった。
ここで色々考えても仕方がない。私はチームメイトの応援を頑張ることにした。
仁美とは別のチームだったが、同じ競技にした時に毎回当たってしまうため体育祭限定のライバルのような関係になっていた。仁美も今年こそはと意気込んでいたからかなり楽しみにしていたはずだ。
「じゃあ今年は春の不戦敗ってことで、もう私の勝ちでいいかな?」
心配は必要なかったようだ。
「そんなふうに勝てて仁美は嬉しいのか!?」
「めっちゃ嬉しい。走らなくて勝つとかサイコー。」
仁美は少し背伸びをして私を見下ろす形で鼻で笑う。
「めっちゃ煽って来るじゃん。」
「そんなことないですわよ。おほほほほ。」
こんな会話をしていると前で進行していた学級委員長から注意された。
私たちは2人で謝って顔を合わせると密かに笑いが出た。
最後の体育祭。たとえ走れなくても、これはこれで楽しくなるかもしれない。
私は黒板の文字を見ながら1人でニヤニヤしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます