第20話 願い
痺れは日ごとに増え意識を手放すことも増えてきた頃、気づけば7月に入り高校で七夕用の笹が校内にいくつか準備されていた。
その隣には短冊のような紙が置かれておりみんな自由に書けるようになっている。
みんな、彼氏が欲しいとか、お金が欲しいとか、受験成功とか、微笑ましい願い事が多かった。
「春は書かないの?」
仁美は紙を2枚とって何か書き始めた。
「んー、願い事とかないしなぁ。」
「え、マジですか?私なんてありすぎてどれかこうか迷ってるんだけど。」
「どうせ、彼氏欲しいとか、お金欲しいとか、でしょ?」
「みんなと一緒にしないで欲しいなぁ。」
「じゃあ何書くの?」
「玉の輿になれますように。」
「一緒じゃん。」
「は、冗談で、1つは無難に受験成功。2つ目は春のバンド復帰かな。」
「え?私?」
「うん。兄貴も残念がってたよ。だから、落ち着いたらまたバンド復帰して欲しいなって。春は歌ってる時が1番楽しそうだし。」
「ごめんなさいって言っといて。多分もうバンドやらないと思うから。」
「春…。まぁ、願い事だから。叶う叶わないは別としてね。」
「うん。あ、じゃあ私も1つ願い事書こうかな。」
「お、なになに?」
「ひみつですぞー。にしし。」
私は紙を1枚とって仁美に見えないように書いた。
2人で笹にくくりつけたところでチャイムがなり急いで教室に戻った。
「で、何書いたかほんとに教えてくれないの?」
「だから、内緒だってー。」
「ケチー!」
仁美のその声は教室中に響いてみんな大笑いしてクラスは賑やかになった。
「仁美、声デカすぎ!」
「ごめんって。」
みんなでワイワイ言っていると先生が来た。
日直の掛け声と共にみんな静かになり椅子を引く音が響く。
私も立ち上がろうと足に力を入れた瞬間。
視界が暗くなった。
(あ、ヤバい。)
そう思った時にはもう遅かった。
そのまま倒れてしまい今度は教室中に嫌な音が響いた。
みんなが駆け寄ってくるのを薄れていく意識の中確認しながら意識を手放した。
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