第19話 一人

病院で検査をした結果、やはり少しづつ悪化していた。

だが、特に私に変わったことはなくこのままでも大丈夫だと判断された。


「最近右半身の痺れとかはどう?」


「うーん。あれきり一度もないんですよね。」


「そっか。良かった。ところで、春ちゃんって今高校三年生だよね?今みんなピリピリしてる時期じゃない?」


「クラスの緊張感がヤバいですね…。」


苦笑いで返すと桜木先生も苦笑いで返してきた。


「じゃあバンドとか大変でしょ?なかなか集まれないんじゃない?」


「あ、それが、この間解散しました。」


「そ、そうなんだ。ごめんね。」


「いえ、元から考えてはいたんで。でも、みんなにちょっと悪かったなとは思います。」


解散した時の話をすると先生は仕方が無いと慰めてくれた。


「じゃあまた来週ね。何かあったらすぐ来てね。お大事に。」


「ありがとうございます。」


私は診察室を出て外で待っていた母さんの車を探す。


「春ちゃん!こっち!」


母さんが窓を開け私を呼ぶ。

私は車に駆け寄り素早く車に乗った。


「春ちゃん、悪いんだけどお母さん今からちょっと職場に顔出さないといけなくなったから家でお留守番頼んでもいい?」


「うん。大丈夫だよ。」


「ごめんね。」


母さんはそう言いながら車を少し急ぎめに走らせる。雨の降る中。タイヤが水を跳ねる音がやけに脳に響く。


家に着くと私が降りるのを確認して母さんは直ぐに行ってしまった。


鍵を開け靴を脱ぎリビングへ向かう。コップにお茶を注いで一気に飲み干した。


そのまま階段を上り部屋へ向かっていると急に痺れが来た。

右半身に。


階段の途中、急に右脚の力が入らなくなりそのまま崩れ落ち階段から落ちた。

幸いそんなに登っていなかったため軽く体を打っただけで済んだがしばらく動けずそのまま階段下で痺れが収まるのを待った。


打った部分がだんだん痛みだした頃、痺れが収まってきた。


頭を打った気がして右のおでこ辺りを触り手を見ると少し血が着いていた。


「やっぱり、でもちょっと切っただけみたいだし、良かったぁ。絆創膏貼っとけばいいかな。」


痺れが完全に収まり立ち上がって洗面所へ向かい確認する。血が出ている部分を軽く水で流して傷の具合を診ると思った通り傷は浅く少し切っただけだった。

直ぐにリビングの救急箱から絆創膏を取り出し適当に貼った。

絆創膏は前髪が隠してくれた。


「まぁ、大丈夫でしょ。」


お母さん達は知らない。痺れが右半身になることがあることを。


でも、階段のことは前々から危険に感じてはいた。

もしかしたら上っている途中で気を失う可能性があるかもしれない。

その時階段から落ちて打ちどころが悪ければ余命もクソも無い。

普段はお母さんかお父さんが一緒に階段を上がってくれるし一人の時があまりないためいつものようにしてしまい落ちてしまった。


1人の時の対処法を考えなければ。

自室に行くのを諦めリビングのソファに寝転びそのまま眠った。



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