第18話 梅雨

私は解散を告げて直ぐにライブハウスのオーナーに電話をしてイベントの出演を辞退させてもらい、解散することも話した。


オーナーはとても残念がっていたが分かってくれたようで逆に応援してくれた。


3人からはずっと連絡が来ていたが全部無視していた。

6月に入り雨が降ることが増えてきた。

結衣はメッセージで必死に謝ってきていた。

康太も結衣と同じくずっと謝っていた。

春樹は理由を聞いていたが途中で諦めたのかメッセージが来なくなった。


雨の降る窓の外を眺め今日は通院の日だというのを思い出し、少し憂鬱になる。


「こんな雨が降る中でも行かないといけないのかー。はぁ、こんなに謝られると罪悪感が…。でも今返事返すと絶対バンドのこと考え直せって言われるだろうし、あの3人に納得させられそうで嫌なんだよなぁ。もっと早く解散すればよかった。」


1人で喋っているとお母さんが部屋に入ってきた。


「春ちゃん。今日病院に行く日だから、そろそろ準備してね。」


「はぁい。」


「あ、それと、昨日の夜春樹君が来たわよ。春ちゃんは寝てたみたいだからまた今度ってお願いしたけど。」


「え、マジ?春樹が?」


「まじよ。すごく心配してたよ。連絡しても返事がないって。返事くらいしてあげなさいな。もうバンドも解散してしまったんなら会う機会もそうそうないかもしれないんだし。」


「いいんだよ。会ったら迷うから。また来ても適当に追い返して。」


「追い返してって、春ちゃん。」


「私は3人の邪魔になりたくないだけ。受験終わったらちゃんとみんなに話すよ。」


「わかったわ。今度来ても寝てるって言っておくから。」


「ありがとう。」


「ほら、そろそろ行くから準備急いでね。」


「はーい。」


そう言ってお母さんは部屋を出た。

私は服を着替えて部屋を出た。


「先に車に乗ってるからね。」


お母さんの車の鍵を持って玄関の扉を開ける。

土砂降りの雨が微かに私の頬を濡らす。


「来ないでよバカ春樹。」


その声は目の前の男には聞こえただろうか。


「返事もない。家に行っても寝てる。会いたくないのは分かる。俺たちの進路の邪魔したくないからだろ。けど、いきなり解散ってのはねぇんじゃねぇの。春。」


「なんで平日の昼間にこんなとこにいるんですかね春樹くん。サボりですかぁ?」


「俺は優等生だからサボったりしねーよ。今日は学校の創立記念日で休みなんだよ。」


「優等生とか自分で言うかな?」


「今からどこか行くのか?」


「うん。お母さん今日仕事休みだから2人でデート。」


「ウソ。」


「嘘じゃないしー。」


「お前嘘つく時絶対腕組むから分かるんだよ。」


「腕組む時くらいいつでもあるしー。」


「嘘つく時だけは右手が上に来るんだよばーか。」


「…なんで来たの。」


「そりゃ心配だからだよ。」


「そう、なら私は元気だから、わざわざありがとう。じゃあね。」


車の鍵を開けて乗ろうとすると春樹が私の腕を掴んだ。


「痛いんだけど。」


「お前、本当はどこに行くんだよ。」


「はぁ、病院だよ。この前倒れたでしょ?その後の経過見て貰うの。」


「なんでだよ。悪いものじゃなかったんだろ?」


「なかったよ。けど、念の為の通院だから。」


「そうかよ。」


春樹は手を離した。

土砂降りの中傘をさして待っていた春樹はズボンの裾が少し濡れていて、私はそれに気づかなかったフリをした。

そのまま車の後部座席に乗り込みドアを閉めながら帰っていく春樹の後ろ姿を見送った。


「ごめん。」


雨音がその声を消してしまう。

それでいい。

少し濡れた頬を拭き取った。

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