第17話 解散
中々集まれずライブの日は徐々に迫ってきていた。
5月に入り余計ピリピリしだし、特に、康太と結衣は完全に口を聞かなくなった。
「結衣、いつまでそうしてるつもりなの?前も言ったけどこのまま暗い空気でライブするくらいなら辞めるよ。」
私は少し強めに言ってしまった。
「わかってるよ。けど、康太がいちいち私に色々と文句を…。」
「言い訳しない。康太にも私から言っておくし、多分春樹も言ってくれてると思う。2人とも勉強が大変なのは分かるけど、それを言い訳にするくらいならもう今回は出ずにこのまま解散する。」
「…いいよね春は。」
「え?」
「春はまだ進路とか決めてないからたまたまライブに重ならないでバタバタしなくていいかもしれないけど、私たちは違うの!春には分からないかもしれないけど、このプレッシャーは!」
珍しく結衣は声を上げた。
「結衣、私はバンド組む時に、すぐ解散するかもしれないからバンド名は付けなかった。たまたまそれでもOKしてくれたから今までイベントにも参加させて貰えたし、そこそこ知名度も出てきた。けど、こうなることはわかっててそれでもフォロー出来なかった私が全面的に悪い。ごめん。今日はもう練習終わろう。帰って考えたいことあるし。じゃあ先に帰るね。」
私が悪い。今回は私がしっかりとみんなのフォローをするべきでライブも引き受けるべきではなかった。
ただ、断ることも出来なかった。
どちらにせよ今回が最後だと思ったから。
私はギターを背負ってそのままスタジオを出た。外には春樹と康太が話しているのが見えた。
足を止めて、
「春樹、康太、今日はもう終わるから。私は先に帰らせてもらうね。康太、結衣が中で泣いてるかもしれないからフォローしてあげて欲しい。ごめん。」
それだけ言って私はまた足を進めた。
後ろから春樹が私を呼んでいたがそれを無視して歩道橋を渡る。
私はバンドのことしか考えていなかった。
解散は頭に入れていたが、3人なら続けてくれると決めつけていたのかもしれない。
もう無理だ。結衣が焦っているのは分かっていた。
理系の道に進む康太を追いかけるべく文系の結衣がわざわざ苦手な理系を選んだのだ。
こうたもそれを知っているからこそ結衣に自分から勉強を教えているらしいが、文系の進学コースに居た結衣が理系を1から学ぶのは相当なプレッシャーやストレスがあるだろう。
私はそのプレッシャーとストレスを軽く見ていたのかもしれない。
康太と結衣の将来の夢は知らない。けど、その障害となっているのなら。
考えていると直ぐに家に着いた。
部屋に入りベッドに倒れ込む。
「解散。」
その一言が重く部屋に響いた。
そしていつものように右手が痺れてきたが起きる気力がなくそのままうつ伏せになっていた。
「潮時だなー。」
夜、3人にメッセージを送った。
【──ノーネームは今日をもって解散します。
3人とも今までありがとう。勉強頑張って。】
携帯の電源を切りそのまま気を失った。
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