第15話 悩み
時間というものは、案外無情にも過ぎていくもので、早くも5月に入ろうとしていた。
みんな進路のことを真剣に考え始めクラスではピリピリした雰囲気が広がりつつあった。
うちの高校は進学校では無いためそのまま就職の子もいるにはいたがやはり進学の子は全体の7割と、多い方ではあるため、推薦を勝ち取るべく普段仲のいい子達ですら少し口数が減ってきた。
仁美は進学だが頭もよく先生たちからも信頼があるため余裕なようだった。
「仁美って結局何になりたいの?」
「あれ、言ってなかったっけ?私、放射線技師になろうかと思って。」
「放射線技師?なにそれ。」
「医療関係だよ。簡単に言えばレントゲン撮ったりする人のこと。」
「え、あれって医者がやってるんじゃないの?」
「医者もできるってだけで基本は放射線技師がやってるよ。」
「へぇー。でも、なんで医者じゃないの?医者でもできるなら放射線技師じゃなくても良くない?」
「医者ってさ、言ったら色んな人と関わって色んな人の命預かる仕事じゃん?もちろん放射線技師は関わらないとかそんな事じゃなくて、重さが違うかなって思ってね。あと、医者になれるほど私頭良くないし。」
「えー、仁美ナース服より白衣の方がいいと思うけどなー。」
「もう決めたからいいの。それより、春はどうするの?まだ決まってないの?」
「うーん、音楽はやりたいけど、色々と問題が多くてね。」
「何問題って。」
「ひーみーつー。」
「なにそれ。」
私は将来のことは考えられない。考えるべきは今やること。
それがわかっているからこそ、仁美の将来の話を聞くと少し羨ましかった。
みんな将来がある。未来がある。やりたいことがある。
「そういえば、昨日テレビであってたんだけど、余命宣告された人って何をするのか、みたいなやつだったんだけど、春なら何する?」
一瞬ドキッとした。私のことを言われてるのではないか。もちろん仁美はただテレビの話をしただけ。
「うーん。とりあえずやりたいことやるかなー。」
「だよね。死ぬ間際にアレやっとけばよかったとか思うの嫌だしねー。まぁ、私たちが死ぬ頃には大抵のことやれてるだろうしもう寝たいとか言いそう。」
「私たちって私も入るの?」
「何言ってんの?春だけ不老不死にでもなるつもり?そうはさせないからね。一緒におばあちゃんになって縁側でお茶飲むんだから。」
仁美は笑ってそう言う。
仁美の中ではおばあちゃんになるまで生きているんだ。私も一緒に。
「そうだね。」
私も笑い返すが上手く笑えてなかったかもしれない。
無理だ。出来もしないことを笑って誤魔化すなんて。
顔が少し下を向いてしまう。すると、仁美が優しく頭を撫でてくれた。
「仁美?」
「何があったかは知らんけど、後悔はすんなよ春。」
仁美は頭を撫でながら空いた手で私の手を握った。
こういうことをしてくれるから余計迷うんだ。
病気のことは言っておくべきか。こんなに心配してくれてるのに、何も言わずに急にお別れするのは私も辛い。
でも、言ったところで仁美には気を使わせ心配させるだけだ。今年受験もあるのに私のせいで不安を増やしたくない。
仁美は今でこそ余裕な感じだが案外本番に弱いタイプな為受験が近づくと絶対にノイローゼ気味になる。そこにさらに追い打ちをかけるような真似はできない。
でも、仁美には覚悟しておいて欲しい。私がいなくなる生活を。私としかあまり話さない仁美。
多分依存気味であることはわかっている。
仁美は私以外にあまり興味がない。
わかっている。分かってはいるのだが、どうするべきかは分からなかった。
これも死ぬまでにはちゃんと解決しなければいけないことだ。
「仁美って本当に私の事好きだよね。」
「何今更。好きに決まってんじゃん。大好きだよ。ずっと。」
チャイムがなり授業が始まる。私は前を向きまた後で考えようと頭を切りかえた。
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