第12話 悪化

卒業ライブの次の日から、あの調子の良さが嘘のように、私は苦しむことになる。


朝目が覚めると、身体が動かなかった。


「あ、これヤバいやつじゃ…。」


脳が徐々に覚醒する事に襲ってくる右手の痛みと、さらに右足までも痺れ始めた。


「お母さん…。」


出た声はかすれていてとうてい聞こえるはずもなくしばらく私はその痛みに耐えた。


10分くらいで治まり体が動くようになったため直ぐに着替えてリビングへ行くと、いつものように朝ごはんが用意されていた。


「春ちゃん。おはよう。」


「お母さん…おはよう。」


「どうしたの?元気がないわね。」


「そうかな?昨日の疲れが取れてないのかも。」


苦笑いして答えるとお母さんは心配そうに私の顔を覗き込んだ。


「無理だけはしないでね。明日病院でしょ?忘れないようにね。」


「わかってる。」


私は焼きたてのトーストにかみつき、急いで食べ終える。

牛乳を一気に飲み干し薬を持ちリュックを背負って玄関へ向かうとお母さんが弁当を渡して見送ってくれた。


玄関を出ると学校まで1人になる。

道端で気絶でもしようものならたいへんなことになる。

私は迷いやっぱり家に帰ることにした。


「お母さん。」


玄関の音を聞き駆けつけたお母さんはやっぱり心配そうな顔をしていた。


「どうしたの?忘れ物?」


「お母さん、今日休んでもいい?」


「何かあったの!?大丈夫?病院行くわよ!」


「大丈夫!ちょっと身体がだるいだけ、寝てたら治ると思う。」


「…わかったわ。その代わり、何かあったら直ぐに病院に連れていくからね。」


「ありがとう。」


私はそのまま部屋に行きリュックをおろしてベットへダイブしたまま気絶した。



目が覚めると私は部屋着を着て綺麗に毛布をかけられていた。

適当に置いていたリュックもしっかりと収納場所にあり、小さなテーブルにはお茶が置かれていた。


「お母さん…。」


私はコップを手に取ろうとベットから立ち上がった瞬間、右足に力が入らずそのまま倒れてしまいテーブルに大きくてを着いた。


ダァン!


響いた音はリビングまで聞こえたらしくお母さんが慌てて部屋の扉を開けた。


「すごく大きな音したけど、大丈夫!?」


「大丈夫!!ちょっと躓いてコケちゃっただけ!ごめん!あ、色々ありがとう!!」


笑って返すとお母さんは安心したように良かったと一言残してリビングへ戻って行った。


「足はダメでしょ…。」


1人で呟きコップを手に取りお茶を一気に飲み干す。

かわいた喉が一瞬で潤い、身体中に染み渡る。

その時初めて気づいた。


私はものすごい量の汗をかいていた。

直ぐにタンスに入っているタオルを取ろうと立ち上がった瞬間、また気絶してしまいそのまま倒れた。


そして、その日はそのまま目覚めることは無かった。




次の日、病院で検査をしてもらい、桜木先生に右足のことも伝えた。


「一時的に悪化してる。最近なにか大きなストレスとかあった?」


「ストレスは特に…。」


「じゃあ激しい運動したりは?」


「あ、一昨日バンドの先輩の卒業ライブに出ました。」


「その時体に相当負担がかかってたんだと思う。なるべく気をつけて。薬、ちょっと強いの出しておくけど、副作用がかなりキツイかもしれないけどこれだけはしっかり飲んで。少しでも症状を軽く抑えるためだから。」


「分かりました。」


私はそのまま診察室を出ようと扉に手をかけようと伸ばしたとき、先生から声がかかった。


「春ちゃん。ライブ楽しかった?」


「すっごく、楽しかった。」


そのまま診察室を出てお母さんの元へ戻る。


「先生なんだって?」


「一時的に悪化してるって。薬で少し抑えるらしいけど副作用がきついらしくて。」


「悪化してたの…やっぱりバンドのせい?」


「やめてよ。音楽のせいじゃない。私が注意してなかったのが悪いから。」


「そうね。」


そこから会話は無く家に帰るまで何も話さなかった。

家に着きキッチンへ向かうお母さんの背中に


「私、後悔はしてないよ。これからもしない。」


そう言って部屋へ戻った。

お母さんはどんな顔をしていただろう。

部屋に戻るまでふと考えた。

まだ昼だが、気絶とは違う眠気が襲って来たためギターを視界の端に入れ、またみんなで集まれる日のことを考えながら目を閉じる。


「早く会いたいな。」





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