第11話 桜吹雪

卒業ライブは順調に進んでいた。

観客も思っていた以上に入り盛り上がりは絶頂に達していた。


そして、最後、私たちの番がやって来た。

私たちにバンド名は無く皆はノーネームと勝手に呼んでいる。

舞台袖で私たちは手を重ね喝を入れる。


「全力でやりきろう。届けよう!行くぞー!」


その一言を合図にみんなでハイタッチをし舞台へと歩き出す。


「続きまして、後輩バンドと親しかったノーネームの演奏です。」


司会から繋がれたバトンを受け取り私は一言。


「届け。」


その一言で会場は一瞬で歓声に包まれる。


そして結衣のドラムから入る。

最初は何度もやって来たカバー曲。

歌を歌いギターを弾きリズムを刻む。

観客との一体感が身体中に伝わる。


(この感じ、サイコー!)


終盤にかけて盛り上がりは増し無事に1曲目が終わる。


「次の曲は新曲になります。ノータイトル。」


曲名紹介をしギターのソロから始まる。

そして、息を思い切り吸い込み歌い始める。


3人は後に続き音を奏でる。


上手くサビまでいき間奏にはいったとき、右手に違和感が出た。

またあの痺れが来たのだ。


(タイミング悪すぎでしょ。)


間奏を抜けたらまたギターソロになる。


私はこのままではギターが弾けないと瞬時に悟りソロに入った瞬間にギターから手を離しマイクに手をかけた。


アカペラ。


《届け。この音が、私の存在を示すように。いつまでも残るように。》


このフレーズを歌い切れればあとの3人の演奏が合流する。

もう少し、あと少し、

私の書いた歌を、3人が作ってくれた歌を、皆に届けなくては。


私は必死に歌う。歌い終わり上を向きギターに手をかけみんなとの演奏が再開した時、目の前にはピンクの花びらが綺麗に散った。


その花はとても静かに散り、私の視界を埋め尽くす。

その先に見える人達の顔が、笑顔で溢れていた。


(届け。私の歌。ずっと笑っていられるように。この光景を忘れないように。)


そこから先は記憶がなく意識が戻った頃にはたくさんの歓声が私たちを包んでいた。


私は深くお辞儀をして舞台を去る。

舞台袖にいた他の出演者達、スタッフさん達、先輩たちに熱く迎えられその瞬間思わず泣いてしまった。


「先輩ー!!忘れないでください!!バンドやってた時のことも、私たちのことも、ファンのことも!!ずっとずっと音楽を好きでいてください!!」


私は思い切り先輩たちに抱きついた。


観客の人たちはその光景を暖かく見守ってくれていた。

先輩たちは今日が最後。このメンバーでこのファンに見守られ歌うのは。

卒業とはそういう事だ。

私達はもうすぐ終わる。こんのメンバーでの演奏はあと1年で終わる。

ここで目標がまたひとつ増えた。


(私が居なくなってからもバンド続けて欲しいって、どうやって説得しようかな…。)


その後、先輩を無事送り出しその日の卒業ライブは最高のイベントとなり幕を閉じた。


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