第9話 リハーサル

ついにあと2日となった。

この2週間通しもあまり出来ず正直ヤバい。

そして、何が一番ヤバイか…


「歌詞が出来ない。出てこない。ヤバい。」


サビの部分、たった5行の言葉が私には出てこなかった。

いつも練習の時はラーラーラー戦法で誤魔化している。そして今日はついにリハーサルがあるのだが、もちろんそこではちゃんと歌わなければならない。

そして、現状、リハーサルの順番が次になっていた。

ここで歌えなければ当日新曲はなしだと春樹に言われた。

せっかくここまで作ってくれた歌を披露できずに捨ててしまうのは私は怒って反対した。


「たとえ今歌えなくても当日までには!!」


なんてみんなに言ったら怒られるだろう。

リハでできないことが当日でできるかと。

私たちグループの決まり事の一つで、

『リハでできないことを本番ではやらない。』

とある。

これは私から出した案だったが、まさか自分を苦しめようとは思ってもいなかったため少し後悔している。

ひとりでう〜んう〜んとうなっていたら3人が私の肩と背中を軽く叩き笑いかけてくれた。

これはいつものルーティーンで3人が私の肩と背中を叩くと必ず上手くいくという…私が少し痛いだけの魔法のおまじない。リハーサルと本番前は必ずやっている。


「春ちゃん。そんなに緊張しないで。順番まであと10分くらいあるから。」


「いや、あの、そうじゃなくて…。」


結衣が話しかけてくれたが、私は緊張しているのではなく歌詞ができてないことに焦っているんだ。なんて死んでも言えない。


「じゃあなに?歌詞がおかしくないか心配だとか?大丈夫だよ。春ちゃんの歌詞は最高だから。」


ちなみに前回曲を作った時も結衣はこう言って励ましてくれた。


「う、うん。ありがとう結衣。……はぁ〜癒しだ…。」


結の顔をじっと見つめると相変わらず結衣は直ぐに顔を逸らして視線を外す。これが可愛いんだ。


「お前ほんっとに結衣のこと好きだよな。」


「早く親離れできるといいなチビちゃん。」


春樹と康太も話しかけてきたが康太は私の頭に腕を置き肘掛のようにして体重をかけてきた。


「おっも!康太やめてよ!ほんとに重いから!あとチビって言うな!平均だわ!」


康太はたまにこうやって私を使って結衣を嫉妬させようとする。それは決まって2人が喧嘩をしているときや少し雰囲気が悪い時。


「で、何があったの。」


小声で康太に話しかける。結衣はそりゃもうものすっごい顔をしていた。


「結衣がすっごい睨んでくるので離れてくれない?こんなことすると余計悪化するよ。」


私が軽く康太の腕を叩く。


「わかってるよ。俺が悪いんだ。謝ったんだけど、あの通り、機嫌が悪いまま。」


「はぁ…。わかったから、間は取り持ってあげるから、早く離れてって。」


康太は毎回私を頼るが、そろそろ自分で解決する力を身につけてもらわないと。来年にはもう居ないんだから。

ひとつ、やりたいことが見つかった瞬間だった。


「毎回ありがとな。やっぱ女の気持ちは女にしか分からないだろーし。」


そう言ってまた私の頭に腕を置く。

今度は別の視線が刺さった。


「おい、康太。」


春樹が一言そう言うと康太はすんなりと腕をどける。


そんなやり取りをしてると直ぐに私たちの番が来た。

あ、歌詞が…。でも、なんか今のやり取りで決まった気がする。

もうぶっつけで歌おう。私はスッキリしていた。


「次のグループ、セッティングお願いします。」


スタッフさんからの声掛けがあり私たちは挨拶をして準備を始めた。


「今から一通りやるんで本番と同じようにお願いします!」

音響さんからの指示が入り私たちは切り替える。

こんな日常だからこそ、しっかりと残したい。

私が送った青春を、なにか形として。


その日、とても調子がよく、歌は私の唯一の存在となり4人のものになった。


ずっと、ずっと、4人が一緒にいられるように。ずっと繋がっていられるように。

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