第7話 日常
あれからはや3日たち3月に入り、今日無事に退院した。
薬も変えて気絶や右手の痺れも減り、無事学校にも通えるようになった。
久々に学校に行くとクラスメイトが駆け寄ってきてくれたり、色々と気を使ってくれた。
ノートもとってくれておりとても助かった。
もちろん病気のことは学校側には伝え、クラスメイトには黙っているようお願いした。
机の中はプリント類がどっさり溜まっていた。
昼休みになると必ずギターを持って屋上に行っていた。
ご飯を食べ、ギターを弾く。そして、歌う。
この時間はいつも1人で居たかった。
「やっぱり、音楽は不滅なんだよなぁ。最強だぜ音楽!」
1人でずっと歌っていた。
昼休みが終わり教室に戻る。これまたいつも通り。
この風景を見ると少し嬉しかった。
授業が終わりホームルームが始まる。
私はソワソワしていた。そしてホームルームも終わり私は急いでギターを持って学校を飛び出した。
今日は久々の練習でスタジオに集まる日だった。
私はいつもの交差点を曲がり歩道橋を渡ったところで春樹と会った。
「お前なぁ、走るなよな。病み上がりなんだぞ。」
「このくらい大丈夫だよ。」
「大丈夫じゃねーだろ。」
「何だよ。お母さんみたいなこと言わないでくださーい。」
「おばさんから走ったりしたら叱るようにって言われてるんですぅ〜。」
2人で言い合いながらスタジオにつき、部屋のドアを開けると、結衣と康太がちょうどキスしていたところに出くわしてしまった。
「「…。」」
私と春樹は静かにドアを閉めた。
2人で回れ右をしてそのまま去ろうとしたら後ろのドアが勢いよく開き結衣が私に突進してきた。
「春ちゃん!春樹君!違うよ!?あのね今のはね!なんというか…その…。」
「何が違うんだよ結衣。」
「康太は黙ってろ!」
結衣はニヤニヤする康太に怒鳴った。
「ま、まぁ、仲良いみたいだし、よかったよ。ね?春樹。」
「そうだな。まぁTPOを知らない馬鹿な奴らだとは知らなかったけどな。お前らは頭いいほうだと思ったんだが。俺の気のせいだったみたいだ。どうぞ続けて。俺と春は暫く戻らないので。」
「春ちゃぁああああぁん!!!」
私はしがみつく結衣を無理やり離して、
「浮気者。」
と一言残し春樹と去った。
後ろからはけたたましい断末魔が聞こえたが無視してそのまま自販機へ向かった。
自販機で4人分のスポーツドリンクを買い戻ろうとしたら春樹に呼び止められた。
「今戻るとまた修羅場だぞ。もう少し時間潰して戻ろうぜ。」
「そうだね。でも、結衣と康太長いよねぇ。2年?いやぁ長いわぁ。」
「長いなぁ。お前はまだ一回もないもんなぁ。」
「春樹だってないくせに、人のことバカにする前に自分の経験値みてみろっての。」
「俺はあるし。高一のとき3ヶ月ほど。お前らには内緒にしてたけどな!」
「は?何それ。報連相は基本だろぉがよ!春樹…やりおったな。裏切り者!!」
「ついにお前だけだな!お前のとこは女子校だし、卒業まで待つんだな!うっへっへっへ!!」
「キモっ!!別に学校はカンケーないしー。」
「何を言おうが俺にはダメージはない!」
2人で笑い合う。こんなに幸せに感じれることがあったか。
何気ない会話、出来事が幸せに感じたことが…。
「…で、結局病気ってなんだったんだよ。入院して精密検査したくらいだからまぁまぁ悪いやつだったとか?」
「あー、別に大したものではなかったけど安静第一でね。薬飲んでたら良くなっていくやつだよ。心配かけたね。」
「別に、お前がいないとバンド出来ねぇし。誰が歌うんだよ。」
そういった春樹は耳が少し赤くなっていた。
「照れるくらいなら言うなよな。こっちまで恥ずかしいわ。」
「お前なぁ、たまには可愛くありがとうとか言ってみろよ。だから彼氏が出来ねぇんだよ。」
「アリガトーゴザイマスー。…彼氏出来ないのは関係無いよねぇ?」
「男は笑顔が可愛い子に惚れるんだよ。男からのアドバイスだ。お前の辞書にしっかり書いとけよ。」
「聞いても無いアドバイスどーも。じゃあ逆に女の私からもアドバイス。思っても無いこと言うなよ。これ春樹の癖ね。可愛いとか思ってないのに可愛いって言ったり、美味しくないのに美味しいって言ったり、相手に合わせすぎ。女はそういうのすぐ分かるから。」
「バレてたのかよ。」
「だから振られんだよ。私たちにそんな事したら往復ビンタだから。」
「なんで俺が振られたって決めつけんだ。」
「え、違うの?別に強がんなくてもいいんだよ?」
「おい。そろそろ黙っとけ。お前はよく喋るなぁ。頭は良くないけど口だけは達者にできてるってか!」
「バカにすんなよ!私だってやればできる子なんだよ!そんなんだから今は彼女なしの可哀想な男子高校生なんだよ!バカ!」
「俺は今はいらねーの!作んないだけだ!」
「自信ないやつほどよく吠えるなぁ!」
「はぁ!?お前だって居ないだろ!」
「女子校でどうやって作れと?紹介してくれるのかな?合コンしちゃう?」
「するかアホ。今はバンド優先だろ。」
「ほほぅ、バンドのせいにするのか…。」
そう言い合ってると後ろから声がかかった。
「あの、すみません。春さんと、春樹さんですよね?」
「はい。そうですけど。」
「やっぱり!いつもライブ行ってます!春さんの歌聞いて自分もバンド初めました!」
「あ、そうなんですか!ありがとうございます!!頑張ってください!」
ファンなんだろう。こういう風に言ってくれる人がいるだけで私たちはバンドをやってる意味があるんだと思えた。頭を下げ握手しようと手を出すとその手を急に捕まれた。
「あの!急にすみません!俺、春さんに一目惚れしたんです!良ければ付き合って欲しいです!」
おぉっと、これは予想外だ。
「え、あの…。私たち初対面ですよね?」
「はい!でも俺ずっと見てたんで!というか一目惚れだったんで!付き合うのが無理ならせめてお友達から…。」
手を強く握られ困っていると、春樹がその手をさらに上から握った。……かなり強めに。
「いったい!!春樹!?ちょ、痛い痛い!!」
男も痛かったようで手を離した。
「あ、すみません。もしかして春樹さんたち付き合ってたりします?」
「え、そんなわけ…」
「そうですけど?俺と春は今付き合ってるんで、触らないでもらっていいですか?ファンとして応援してくれてるのはありがたいですけど、プライベートは別なんで。では。」
春樹はそう言うとポカンとした私の手を握って結衣たちの元へ戻った。
扉を乱暴に開けた春樹を見た2人はびっくりしていた。
いや、私もびっくりした。
「春樹?お前なんで怒ってんの?なんかあった?」
「あぁそうだな!お前らがイチャついたせいで最悪なことがあった!」
「春ちゃん、何かあったの?ごめんね。康太のせいで。」
結衣が私の元に走って来て少し泣きそうになりながら謝ってきた。あくまでも康太のせいだが。
「悪かったよ。で、何があったんだよ。お前らもついに付き合ったのかよ。」
ストレートに聞いてくる康太に春樹はスネを蹴り、結衣はドロップキックをかました。
結衣…そんなことできたんだ…
「付き合ってねーよ。バカ春が男に絡まれたから助けただけ。これだから出会い厨のファンは嫌いなんだよ。」
「春樹!なんであれファンの子を悪く言わない!ね?春ちゃん。」
倒れた康太に座った結衣が可愛い笑顔でそう言ってきた。スッキリした顔をしていた。
「そ、そうだよ。あんまりファンを悪く言わない!でも、助かったよ。ありがとう。」
さっき言われたことを思い出し、私の中でできる限りの可愛さを出して言ってみた。
春樹は私を見て顔を真っ赤にさせた。
「お前なぁ、やめろよそういうの…。」
「春樹がやれって言ったんじゃん!なんであんたが照れるんだよ!」
「言ったけど!けど!はぁ〜。」
「春ちゃん!可愛いよ!」
そう言って頭をなでなでする結衣の方が可愛い。
「もういいっすか?そろそろ練習しようぜ。」
こうたのこの一言に私たちは反応した。
「「「元をただせばお前のせいだ!」」」
康太は少し落ち込んだ。結衣にも言われ少しショックだったみたい。
でも、春樹の色んな面が見れたからよしとしよう。
私はまた言い合いを始めた3人に声をかけて練習を始めた。
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