第5話 事実
目が覚めると病室には両親と幼馴染達がいた。
まだ覚醒しきっていない脳をフルに動かそうと意識を向けた。
私の手を握っていた結衣がわずかに動いた手に反応してすぐに顔を覗き込んだ。
「春ちゃん!?大丈夫?私がわかる?」
「あれ、みんな…来てたの?今何時?」
私が小声でそう答えるとみんな安心したように息を吐いた。
「今19時よ。春、どこか痛いところはない?」
お母さんはそう言いながらナースコールを押した。
すると直ぐに桜木先生が入ってきた。
「春ちゃん、目が覚めたんだね。よかった。」
「私結構寝てしまってましたよね?」
「…春ちゃん、あなたは気絶してたのよ。」
気絶…。マジデスカ。唐突に意識飛んだと思ったら眠気じゃなくて気絶か。
「なるほど…あれは眠気ではなかったのか…。」
1人で納得していると春樹が笑った声が聞こえた。
「なんで笑うのよ!春樹のばーか!」
「バカはお前だよばーか。でも、いつもの春だな。良かったよ。」
ふっと優しく微笑みかけてくれる春樹に私は不覚にもドキドキしてしまった。
みんなと同様春樹も私のことを心配してくれていたんだとわかった。
「では、君たちには申し訳ないけど、面会はもう終わりの時間だから、またあした来て欲しいな。」
「分かりました。じゃあ春ちゃん。私たちは帰るね。また明日も来るから。おやすみ。」
結衣はそう言うと私の手を離して康太と春樹を連れて部屋を出た。
康太は最後まで一言も喋らず、春樹は最後まで私を見てて、結衣は手を握っててくれた。なんて優しい幼馴染達…。
3人が出ていったのを確認すると桜木先生が神妙な面持ちで話し始める。
「結論から言います。春ちゃんは悪性の脳腫瘍を患っています。…それは他のところにも広がっており手の付けようがないものです。残り長くて1年です。」
だからか、さっきから2人が黙っていたのは。お母さんに泣いた跡があるのは。
「春ちゃん、君は若い。まだやりたいことがあるはずだ。好きなことをするも良し、ここで少しでも長く生きるために治療をするも良し、決めるのは君自身だよ。」
お父さんとお母さんは私の発する言葉を待っている。
多分この選択を委ねたのも、余命のことを私に伝えたのも、両親の優しさだ。
でも、私は、私は…。
「1年以内には死ぬんですか?私。なんで?」
「春…。」
お母さんは我慢していたのだろう。涙を流しとうとう私に抱きついて泣きじゃくっていた。
私はお母さんに腕輪回し一緒に泣いた。
「嫌だよぉ!嫌だ!!死にたくない!!私死にたくないよぉ!!なんで!!健康体だったのになんで!?私何かしたかなぁ?ねぇ、嘘でしょ?ドッキリでしょ?こういうのダメだよ。…ねぇ、誰か、嘘って言ってよ!!」
私は頭の長が真っ白になっていた。まだ、17歳なのに…。涙が止まらなかった。
何となく分かってはいたのに。いざ言われると、悔しくて、悲しくて、どうしようもなかった。
「春…、すまない。俺たちが早く気づいてあげてれば…。ほんとうに、すまない!!」
「やめてよ!お父さんたちは悪くないじゃん!謝らないでよ!」
そうだ。悪いのは私。痺れが起きた段階で直ぐに病院に行くべきだった。なのにそれを隠してたのは私だ。誰も悪くない。私が悪いのだ。
「先生、助かる方法は無いんですか?私は…もう絶対に助からないんですか?」
「…春ちゃん…ごめんね。医者の立場として、助かるなんて容易に口にはできない。ただ薬を投与すれば奇跡が起きるかもしれない。これだけは頭に入れておいて欲しい。」
「じゃあ絶対助からないってことじゃないんですよね!?だったら!」
「でもね、薬の副作用はすごく辛いものになる。今言ったように、奇跡が起きない限り治ることも無い。僕は、君が望むようにすることが出来る。しっかり考えて。」
要するに、もう治る確率はほぼゼロに近い。薬でも治らない。少しの奇跡にかけるのか、それとも、最後の最後思い切って青春を謳歌するのか、自分で選ばなければならい。残酷な事実が突き刺さった。
「わかんないよ…私には…、わかんない…。」
私はそこで意識が無くなった。
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