第4話 検査

8時くらいになってご飯が運ばれて来てそれを完食。

9時になるのを待ちながら簡単なアンケートのような用紙を書いていた。


「えーと、アレルギーは、ない。過去に手術もない。現在服用中の薬もない。持病も特にない。こう見ると私って結構健康体なんだなー。」


1人で感心していると携帯が鳴った。

手に取って画面を見るとお母さんの文字。


「はいはい、おはよう。9時から検査だって。子供じゃないんだから1人でも大丈夫だよ。ありがとう。あ、あと、荷物とかもありがとう。じゃあね。」


まぁ内容は、アレだ。要するに、先生に迷惑はかけるなよ、という遠回しな警告。

それから、心配してくれた。

私は電話を切ったあと、思わず泣いてしまった。


「嫌だなぁ…。」


その声は誰にも届かずただ、部屋に響いただけだった。



9時になって桜木先生が来た。

軽く流れを説明してもらい一緒に移動する。


「先生は、またギターやりたいって思わない?」

移動中に聞いたら

「んー、さっきも言ったけど、先生もう弾けないし…。」

複雑な顔でそう答えた

先生には何かあったんだなとそこからは深く聞かず、その話はおわった。

それから何となく気まずい空気になった。しばらく歩いていると大きな扉の前で待つように言われた。


「じゃあ今から検査するから中にいる人達に従って検査を受けてね。終わったらまた迎えに来るから。」


先生はニコニコしながらそう言うと今来た道を戻って行った。

先生を見送ったあと中に入ろうと手をかけると同時に扉が開いた。

すると中から男の人がでてきた。


「あぁ、いたいた。なかなか入ってこないからびっくりしたよ。外で倒れたのかと思った。さぁ入って。」


男の人に言われるまま中に入り待機する。


「じゃあこれ、あそこの更衣室で着替えてきて。金属がついてるものは全部脱いでね。あ、これ皆しないといけない事だから。決して変態というわけじゃないからね。大丈夫、女の先生も居るから。僕はこれでサヨナラだから。終わったら外にいる女の人に声かけてね。」


そう言われ渡されたのはよくドラマとかで見るあの患者が着てそうなワンピースみたいなやつ。

というか、かなりのマシンガンだった気が…。

でも良かった。ちゃんと女の人もいるんだ。


着替え終わり外の人に声をかける。するとドアが開いてスリッパを渡された。


「初めまして。じゃあ本人確認のためにフルネームと生年月日を言ってもらってもいい?」


「あ、はい。三嶋 春、2001年3月9日生まれです。」


「はい。大丈夫です。じゃあ今から検査をしますね。中に入りましょう。」


大きく頑丈な扉の中にはよく見る筒のような機械。


「じゃあこの上に横になって。私は向こうの部屋でマイクを通して指示を出すからそれに従ってね。」


「はい。」


機械の上に横になり体を固定して、女の人は出ていった。そして部屋に声が響いた。


「じゃあ今から写真を撮ります。少し頭を左に、そうそう。真っ直ぐ上を見てね。目は閉じて。では撮ります。」


そんな調子で何枚か撮り検査は終わった。

レントゲン室を出ると桜木先生がいた。


「お疲れ様。じゃあ次は血液検査をするから。」


私の顔が強ばった。

血液検査って、注射…


「えと、どうしてもしないとダメなやつですかね?」


「うん。必要なやつ。」


先生は私の肩をポンっと軽く叩き笑いながら言った。

初めて怖いと感じた。そりゃあもうトラウマ並に。先生はSか…。


そのまま部屋に戻りしばらくして看護師さんと先生が来た。


「春ちゃん。お願いがあるんだけど、この看護師さんに注射させてもらってもいいかな?この子は最近入った子で見習い看護師さんでね、嫌なら断ってくれてもいいから。」


「嫌だなんて言えるわけないじゃないですか…。その代わり、痛かったらベッドでのたうち回りますからね。」


そう言うと看護師さんからふふっと小さな笑い声が聞こえた。


「はじめまして。見習い看護師の秋山って言います。ありがとうございます。」


「いえいえ。もう痛くないなら何でもいいので、サッと済ませてください!あ、やっぱ、全然痛くても大丈夫!緊張せずに、落ち着いて、ね!」


そう言っている間も秋山さんは笑いながら素早く準備をしていた。


いざあとは針を刺すだけと言う時に横で見ていた桜木先生が口を開く。


「春ちゃんは血管が動きやすそうだよねぇ。」


それを聞いた秋山さんは何かの魔法にかかったように動かなくなった。


「秋山さん?大丈夫ですか?」


心配になって顔を覗き込むとかなり緊張していた。


「…あー、別に何回刺しても大丈夫なんで、そんなに緊張しなくても…。」


あー完全にシャットアウトしてらっしゃる。

私の声が聞こえていないらしい秋山さんは私の血管とにらめっこして針をゆっくりさした。

私は刺さっていくその様子をガン見していた。


前に誰かが言っていた。

注射の時はガン見されるほどプレッシャーになる。って。

それを思い出しゆっくりと視線を逸らしただただ笑っている桜木先生に向ける。


「大丈夫。今のところ上手くいってるから。」


先生と目が合うとそう言ってくれたが隣の秋山さんからは変な空気を感じ取った。


その後無事採血は終わりあとは夕方に両親が来て一緒に結果を聞くことになっている。

秋山さんは顔を青ざめて苦笑いをしながら出ていった。


「桜木先生、新人さんいじめちゃダメですよー。」


「いじめてないよ。あれは教育だからね。」


「そういうのなんて言うか知ってます?パワハラですよ。」


「あの子が成長するならいくらでもパワハラしてあげるよ。」


「…鬼ですな。」


「じゃあとりあえず、ご両親が来たらまたお話するので、それまでは安静に大人しく、何かあったらこのナースコールを押すように。」


そう言いながらベットの脇についているボタンを枕の横に置いてくれた。


それからはずっと携帯でゲームしたり、ギターを少し弾いたり暇な時間を過ごした。


その間も痺れは徐々に激しく強いものが襲っていた。しかし、時間が経てば治まる為ナースコールに手はかけていなかった。


そしてそのまま、また眠ってしまっていた。

いや、気絶したのだろう。目の前が意志に反して暗くなっていくのが分かった。

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