第3話 驚き
結局私はそのまま次の日まで起きなかったらしい。
入院の手続きなどは両親が全てやってくれており目が覚めた頃にはいつも家で着ていたパジャマに着替えていた。
昨日沢山眠ったおかげか、今日の目覚めは気分が良かった。時計を見ると7時ちょうどだった。
何をしようかと迷って辺りを見渡すと、大きな鞄が一つだけ椅子の上に置かれていた。さらに横にある小さな机のようなところに置き手紙があった。
春へ
おはよう。必要なものはとりあえずこのかばんに入れておいたので、他に何かいる時はすぐに言ってね。あと、結衣ちゃん達にもちゃんと連絡しなさいね。
お母さんより
「あの後、すぐ取りに行ってくれたんだ。」
カバンの中を見ると、着替えとスマホ、私がすごく好きだったバンドのCD数枚、そのCDを聞くための音楽プレイヤー、そして、窓の方に立て掛けられていた私のギター。
ギターを手に取りピックを握り弦を弾く。
静かな一人部屋に鳴り響く音は耳触りがよかった。
そして直ぐにまた右手に痺れが来た。
ピックは静かに指先から落ちてしまう。
「もう、弾けないかもなぁ…。あ、でも悪い病気と決まった訳では無いし…。いやぁ、びっくりだ。うん、もうほんとにびっくり!!入院する羽目になるとは!あはははは!!」
1人でワイワイ言っていると気が紛れた。
そこにガラッとドアが開く音がして、桜木先生が入ってきた。
「おはよう。ノックしたのに気づかないくらい何か考え事してた?緊張しなくても大丈夫だよ。すぐ終わるから。」
「桜木先生おはようございます。緊張とか…は少しあるんですけど。またギター、弾けるかなって。」
そう言って私は抱えていたmyギターを先生に見せた。
「かっこいいね。ギターやってるんだ。バンド?それとも部活?」
「バンドですよ。まぁ、まだまだひよっこですけどね。昨日来てた友達と組んでて、来月にちょっとしたイベントがあるんですよ。だから、練習しないと。」
ふと先生の顔を横目で見ると、なんとも言えないような顔をしていた。
私はその時分かってしまった。
「…。先生は弾いたことあります?ギター。」
「実は僕も高校の時はバンド少しだけやってたことあるんだよ。でももう弾けないけどね。」
「そうなんですか!!」
「あの頃は僕も少し羽目を外して。」
「え!?先生が!?見るからに真面目そうな先生が!?」
「そうだよ?こう見えても昔は弦狂いの夏生なんて呼ばれてたんだよ!あの頃の僕はギターで世界征服してやろうって思ってたくらいだからね!」
はっはっ!と笑う先生を見て気を使ってくれてるのが分かった。嬉しいけど、すごくキツい。じわっと胸の奥から何かが込み上げてくるのがわかる。
「弦狂いって、なんですかその異名。あははっ!朝から笑わせないでくださいよー!世界征服とか!そんなにギター上手かったんだ。見てみたかった!」
「もう20年も経つからなぁ。本当に、高校生活で一番の思い出だよ。だから、春ちゃんも早く治してバンド復帰して、青春を謳歌できるように、僕も頑張るから。」
ニコッと微笑んでくれるその優しい顔に少し和んだ。
「ちなみに、桜木先生っていくつなんですか?今20年前って言ってたような…。」
「あー…。僕こう見えても39歳です。」
……童顔。20代かと思ってた。
「今日イチのびっくりだ…。」
「じゃあ、この後8時くらいにはご飯が来ると思うからしっかり食べてね。その後9時から検査するからそれまでにこれ、書いて、トイレとかも済ませておいてね。じゃあまた9時頃に来るから。ギターを弾く時はなるべく皆が起きてからでよろしくね。」
「は、はい。すみません。」
渡された紙とボールペンを受け取り、やっぱり聞こえてたであろうギターのことをサラッと注意して出ていった。ちょっと困ってる先生もまた幼さが出ていた。
でも、ギターを鳴らしたのは1回弦を弾いただけでそんなに大きな音ではなかったはず…。
「耳がいいのかな…先生だし。」
そう思う事にした。
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