第14話 下町セレブな文生お嬢様。

「え、ええ。家も近くですし、お茶ぐらいはお出ししますよ」


「ありがとー!文生!大好き!」


「ははは……ドーイタシマシテ」


 夕焼けの中、一つになりそうな位に寄り添う二つの影。


 そして、目の前には豪邸。


「文生!見て見て!スッゴい豪邸!ふふふ。なんかー、元々でっかいホームセンターだったんだけど、いつの間にか豪邸にって!うけるよねー」


「へっ?う、うけるんですか。へ、へー。そーなんですか」


「そうそう!セレブが、なんでまた、こんな所の土地買って豪邸建てたのかって!いまだに謎なんだよねー。いったいどんな人が住んでるだろーって皆言っててー」


「ヘーソウナンデスカ」


「そうそう!文生も気にならない?」


「ソウデスネー」


 そして、門の前に立つ。


 ―ピィーガチャ―


 そして、自動で門が開く。


「え?え?」


「えっと……た、ただいま帰りました。みたいな?なのでしょうか」


「へあ!」


「えーと。ここ……私のお家」


「なあぁ!」


 気まずげな雰囲気の中、広い庭を抜け前庭の小さな噴水を横目に玄関へ向かう。


「文生お嬢様、お帰りなさいませ」


「あ、ただいま帰りました。柴田さん。何時もご苦労様です」


「いえ、これが私の仕事ですので」


「柴田さん。申し訳ないのですけれど、私の部屋に2人分のお茶のセットをお願い出来るかしら」


「かしこまりました」


「よろしくお願いしますね」


 美智瑠に向かって振り返り入室を促す。


「ささ、美智瑠!上がって上がって!」


「お、お邪魔します」


 出されたスリッパをはいてビビりながらも文生と共に二階へと上がって行く。


 そんな事に気付きもせず、初めて友達を自宅に招待した高揚感を文生は味わっていた。


 因みに家は元々借家だったので、2年前に潰れた広めのホームセンター(駐車場込み)の土地を(文生のお金で)買って貰い整地して豪邸を建てている。


 もちろん文生名義、なので税金が半端ない。


「ここが私の部屋ですわ」


 開け放たれたドアの向こうは100畳程の広さで、しかしキングサイズのベッドとソファーとテーブルしかない。


 もちろん装飾の類いはあるが、この広さに対して物が余りにも無さすぎる。


「広!てか広!」


「美智瑠。そちらにお掛けになって。私は着替えてまいりますね」


「え?ここで着替えないの?」


「はい。衣装部屋がごさいますので、そちらで」


「い、衣装部屋!ちょっと見たいかも」


「見てもつまらないですよ。衣装棚とドレッサーしかごさいませんし」


「いやいや、どんな色の服持ってるのかなとか、どういうデザインの服が好みなのかなとか、着替えてるところ見たいなとか、色々あるじゃないですかー」


「なんでしょう。今、邪な言葉が混ざっていた気が」


「気のせいです」


「え?でも」


「気のせいです」


「そ、そお?」


「はい。気のせいです」


「なら、いいのだけれど」


(よし!文生は押しに弱いみたいだし、なし崩し的に彼女になってもらおう。あたしを目覚めさせた文生が悪いんだからね)





 文生の運命や如何に!






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