第13話 文生、予期せぬ御都合主義に出会う。

 皆さんは、「御都合主義」という言葉を知っているだろうか。


 それは、ストーリー展開に関して、それまでの設定や伏線を無視し、強引な後付け設定やでき過ぎた偶然などを用いることで、製作者側に都合よくストーリーを進行させる技法。


 とウィキでは載せられていた。


 特に十分な伏線、因果関係、合理的説明が準備できていないと、物語の盛り上がりを損ない、場をしらけさせ、それまでの流れを台無しにするとして、これを批判する言葉として用いられることが多い。


 らしい。


 そして、何故突然にこんな話をし出したかと言えば、なんて事はない私自身に御都合主義が舞い降りたからである。


 そう。奇しくも気付いたのは、この自宅から歩いて15分の程近い高校、県立椿森高等学校に編入した日の放課後だった。


 ……………やっくんがいない!


 からおかしい。


 確かに、この2年程忙しくて、やっくん処か両親にだって日本で会えず、連絡も取れなかった。


 それでも、とーさまが長期休暇の時は、かーさまと一緒にイタリアに会いに来てくれたから私の話はかーさまを通してやっくんに伝わってるはず。


 ならば、やっくんの進学先の変更だって、私がかーさまから間接的に聞かされていてもおかしくないのだ。何せ今でも、やっくんとかーさまの仲はいいのだ。


 それに、確かに2年前、私はやっくんから直接聞いたのだ。


 やっくんが……草薙八雲くんが、この椿森を受験するって。


 それなのに、私のラブコメルートはいったい何処へ。


 これから楽しいキャッキャウフフなイベントが待っていたハズなのに。


 いや、むしろキャッキャウフフなイベントは起きているのだろう。


 だが、女だ!


 このフレーズは私に対しては正しい表現なのだろう。


 そう、私の相手は美智瑠だった。


 ◇



 放課後、美智瑠を誘って家路につく。休み時間の内に先程のお詫びに帰りにお茶に誘って見たところO.K.の返事を貰った。


「ねえ、みっちゃん何処かお茶出来る処って…」


「美智瑠。」


「え?」


「美智瑠って呼んで。私も…文生って…呼ぶ…」


「え?まあ、いいですけど。美智瑠。」


「はい。文生。」


 ハニカミながら繋いできた手は、何故か恋人繋ぎ。


 動揺を表に出さない位はステージ慣れで出来るけど、何かひしひしと、やらかした感が酷い。


 だが、イタリアでも同性のスキンシップの程度は大して変わらなかったし、気にし過ぎかなと思うことにした。


「えっと。遠回りですけど、駅前のミスドで良いかしら?」


「うん。文生と一緒なら何処だっていいよ。」


「そ?良かった。」


「うん。ふふふ。」


 なにやら随分ご機嫌になったようだ。いつまでたっても顔がムニムニしてて会話する気が無いように見受けられる。ふむ。此処はリードすべきか。


「だけど、やっくん別校かー。」


「む。何、文生、草薙の事、そんなに気になるの?」


「んー。そうですね。ここ数年、連絡取れて無かったけど、昔から連絡取り合っていたのが、やっくんだけでしたから。」


「そ…なんだ。」


「はい。かーさまとも結構、仲良いんですよ。」


「うっ。そ、そーなんだ。……親公認だなんて。」


「うん?美智瑠?」


「ね、ねえ、今度、文生の家遊びに行っていい?」


「え?いいですよ。ぜひ。歓迎しますよ。」


「本当に!」


「はい。」


「よし!」


「? むしろ今から家にいらっしゃる?」


「え!い!いいの!」


 近い!近い!


「えっと、いえ、はい。いいですけれど。何故にそんなに前のめり?」


「あ。いえ。んん。別に。」


 何故か顔を赤らめ、髪と服装を整え始める美智瑠。


 ヤバい。自分の


 目が!目がーぁ!あー!


 死んだ魚の目になる感覚がある。


 気付いちゃ駄目だ!気付いちゃ駄目だ!








 

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