第12話 高校デビューと百合の花。

 先生に呼ばれ教室に入った途端に場がざわめく。


「あー、静かに!今日から君達と一緒に学ぶ事になる柊木だ。柊木、挨拶。」


「皆様、お初に御目に掛かります。柊木文生と申します。以後、お見知りおきを。」


「なんだ、随分と硬い挨拶だな。もちっとフレンドリーに出来んのか?」


「え?friendly?……英語ですか?Ciao, How are you guys? My name is FUMUYU HI-RAGI.Regards from now on!(ちーす。皆元気してた?私は柊木文生だよ。これから宜しくね!)」


 教室がざわめき還す。


「あー。そういう意味ではなかったんだが、柊木、お前イタリアの帰国子女だよな?なんで英語?」


「え?向こうの学校では必修でしたから。イタリア語の挨拶がよろかったでしょうか?」


「いや、いいよ。聞いてもわからんからな。

 まあ、それは兎も角として、柊木はイタリアからの帰国子女だ。日本の一般常識はある程度知ってるらしいが、疎いこともあるだろう。皆、フォローしてやってくれ。

 さて、柊木の席だが、窓側の一番後ろだ。陽当たりが良いからといって寝るなよ。」


「はい。ゆっくり寛がさせて頂きますわ。ふふ。」


「柊木。お前なー。」


「ふふ。冗談ですわ。高木先生。では、失礼します。」


 席に座ると皆チラチラと見てくる。まるで動物園のパンダにでもなった気分だ。そんなに珍しいだろうか?私。


「じゃあ、HR始めるぞ。」


 ◇


 ざわめきがHRが終わった途端に一斉に起きる。若干、ボーとしていた文生に突然声が掛る。


「ねえ、柊木さん。ちょっと聞きたいんだけど、あなた…ふみちゃん…だよね。私の事、覚えてる?橘 美智瑠。小学生の時、草薙とかと一緒に遊んでたんだけど。」


「え?みちる?え?みっちゃん?うそ!久しぶりー!うわー懐かしいぃぃ?………え?男の娘?」


「なんでよ!女よ!女!」


「え?だって、みっちゃん、男子達とバスケとか。髪だって短かったし。」


「ふみちゃんだって交じってバスケしてたじゃない!大体、ふみちゃんの方が僕っ子だったじゃない。………髪は長かったけど。いつも縛ってたし、私意外も、ふみちゃん男の子だと思ってたと思う。」


「え?え?嘘でしょ。まさかやっくんもそう思ってたって事?」


「それは、わかんないけど。やっくんって草薙の事?」


「そうですわ。そういえば、やっくんのクラスって何処かわかります?今日から一緒に帰ろうと思っていたのだけれど。」


「え?ふみちゃん知らないの?草薙、八ヶ岳校だよ。」


「え?嘘!八ヶ岳?聞いてない。だってやっくん椿森受けるって……え、嘘。なんで。」


「あー。草薙スポ薦決まったからじゃない。」


「やっくんスポーツ推薦なんだ。やっぱりバスケ?」


「そ。まあ、八ヶ岳、男子校だし、どっちにしろ、ふみちゃん入れないじゃない。」


「なんですって!く、こうなったら男装してでも」


「男装!ふみちゃんの男装って、うわめっちゃ似合いそう!」


「なんでよ。胸が無いから?いえ、ありますよ!着痩せしてるだけですよ!」


「そーなんだー!では早速。」


「はい。ってこら!イー加減にしなさい。」


「えー。まさかの生殺し?」


「なんでよ。そう言うみっちゃんこそ、見ない内にずいぶんとおおきく立派に育ってー。」


「おばちゃんか!て何、どさくさに紛れて勝手に胸触ろうしてんのよ!」


「ああ、ごめんなさいね。今度から、一言断りを入れますね。」


「そーして。じゃない!断り入れても触らせないよ!」


「ええ?…もう。致したかないですねー。」


 やれやれと立ち上がり、美智瑠を引き寄せ、耳元で囁く。


「美智瑠。君の全てが欲しいんだ。その身を僕に委ねて。いいだろう。美智瑠。」


 顔を真っ赤にした美智瑠に突き飛ばされ、そのまま椅子に座る。


「な、な、な、」


 美智瑠は日本語を忘れた。


 しばらくお待ち下さい。


「……馬鹿。」


 顔を真っ赤にしたまま瞳を潤ませて呟く。


 そして、美智瑠は自分の席に戻っていった。


「ちょっとからかい過ぎたかな。ふふ。まあ、後でちゃんと謝って一緒に帰ろ。」


 私はイタリア在住の感覚で美智瑠に冗談を仕掛けてしまった。


 そう。私は此処でやらかしてしまった事に気が付いていなかったのだ。






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