第8話 二人?の思い。

 イタリア行きは私達の手の届かない所で着々と進められていた。

 何て言うか何となくだが、日本で小学校ぐらいは卒業して行くような気になっていたのだが、小学3年の夏休み中に一度顔合わせの為、渡欧するそうだ。


 なんでも鹿島先生に言われて音楽教室で何曲か演奏したものをネットでダグラス先生に観てもらったそうだ。ダグラス先生は大変興味を持ち、鹿島先生と話した結果、すぐにでも講師を引き受けようとなったらしい。

 でも今すぐは無理なので夏休みに一度顔合わせをして来年の春に向かう事になった。


 ダグラス・マックイーン先生はスコットランドの産まれらしく昔、一世を風靡した名のあるヴァイオリニストらしい。

 結婚を機に、活動を縮小した時、ミラノ音楽院に講師として招かれ、そのまま講師一本に仕事を固定。

 講師引退の後も名誉講師として任命され、今も臨時講師をされている恩歳68歳のお爺様である。


 ダグラス先生は今も様々なコンクールのゲスト審査員などで呼ばれる大物らしいのだ。


 ご健在な奥様とお二人で今も慎ましやかに過ごされている、そのお宅にご厄介になることとなる。


 本決まりになれば、というか、もうほとんど本決まり(何せ向こうも、可愛い孫が出来るとか何とか。所謂、乗り気MAXなのだ。)である。


 つまり小学校の卒業を待たずして渡欧する事になるのだ。


 正直、もう少し、とーさまと、かーさまに甘えて居たかった。という思いが強い。まだ、8歳だ。当然だろう。

 まだまだ親の愛情に飢える年頃だ。人格形成に最も強い影響がある時期でもある。そんな子供を親から引き離していいのか正直悩む。


 しかし、このチャンスを逃しては将来のbad endは私達の事を見逃してはくれないだろう。


 億貯金の何もかも投げ出して何処かに募金でもすれば話は早いだろう。だが、募金したって一千億。何かしらのアクションが相手からあるはず。その時に言い訳出来ない額である。

 いっそのこと竹藪にでも捨てるか?てかそれだけで事件だよ。


 一人立ち出来る年齢ならどうとでもなったのに。何故8歳の時にこんな爆弾見つけるかなぁ。


 でも、今見つけてなかったら、親に見つかってたよね。お金は人を変えるからなぁ。結局堂々巡りなんだよね。ふう。


 よし、気持ちを切り替えてやることやりますかぁ。


 ◇


 夏休み中に手続き諸々と顔合わせも済み、実際にダグラス先生に演奏も観てもらった。大変驚いていたし、大変喜んでもいた。

 いくつかのジュニアコンクールで場数を踏んでコンクールの空気に場馴れしていこう。とのことでした。


 ついでに知名度も上げてジュニアでは収まらない実力があることを世間に知らせることで、大人に混じって弾けるように足場作りも兼ねているそうです。


 そして、イタリアのジュニアスクールに転校の手続きも済み、受け入れ態勢が整った。


 何かとバタバタと、でも緩やかに過ぎて行った数ヵ月。年を越え、僕は9歳になった。


 とーさまが遊びに連れていってくれる回数が増えた。


 かーさまといつも一杯過ごした。


 やっくん達とも一杯、一杯、遊んだり、勉強したりした。


クラスメイトややっくんと過ごしてきた日常。そして小学4年生になった。


やっくんとまた同じクラスだった。また宜しくな!と言われて涙が出そうなくらい嬉しかった。


 ありがとう。とても楽しかった。


 とても……楽しかったよ。


 

 


 でも今日は、楽しかった日常という毎日の区切りの日。




 僕は今日、転校する。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る