第6話 天才でしょうか?いいえ。誰でも。

(それはね……意識のスイッチをするのよ!)


{意識のスイッチ?}


(そお。通常の生活は、貴女。Bad Endの対応は私。という具合にその必要時任に合わせて意識を切り替えるの。まあ、深層記憶と周回条件反射は突発的に起きるからしょうがないとしても、お互いにフォローはできるんじゃない?)


{良く解んないけど僕にできるかなー。}


(出来るわよ。今までだって、無意識にしてたんだから、意識して出来るようになったなら余裕でしょ。


 それに、それが出来れば、きちんと家庭崩壊は阻止するわよ。ここまで条件揃えばイレギュラーさえなければもう成功したも同然だもの。


 そーねー。入れ替えの合図は簡単で分かりやすいのが良いから、単純に[スイッチ]でどうかしら。)


{わかった。でもちゃんと約束守ってよ!}


(当然じゃない!私は貴女でもあるのですから。貴女のとーさまとかーさまは私のとーさまとかーさまなのよ。


 何が悲しくて家庭崩壊促進しなきゃならないのよ。


 だから、安心して大船にでも乗った気持ちでいてちょうだい。)


{うん!ありがとう!}


(お礼はいいわよ。私の為でもあるのだから。さあさあ、じゃあ、とっとと戻って来なさい。)


「はーい。」


(さあ、ここからが本番ね。)


 ◇


「こんにちわー。」


「はい、こんにちは。あらあら。大きくなったわねー。文生ちゃん。ようこそシマハ音楽教室へ。」


「お世話になります。鹿島先生。ほら文生。ご挨拶しなさい。」


「はじめまして。柊木文生です。小学3年生です。よろしくお願いします。」


「はい。はじめまして。とは言っても、実は貴女と会うのは2度目ましてかしらね。文生ちゃんたらお行儀も良いのね。

 キチンと躾なさっているのね。香生さん。良い子に育って。」


「ありがとうございます。鹿島先生。そう言って頂けるだけで嬉しいです。」


「あらあら、まあまあ。でも私、貴女の母校は退職したのだから、先生ではないわよ?」


「私にとっては鹿島先生は、ずっと私の先生で恩師です。」


「あらあら、嬉しいこと。」


「それに、娘まで観ていただけるなんて、私はこの偶然に感謝してもしきれません。」


「ふふふ。そうね。でも、カエルの子はカエルなのかしらね。文生ちゃんがヴァイオリンだなんて。」


「ええ、そうなんです。私、この子が産まれてから子育てが大変でヴァイオリン触って無かったのに。この子からヴァイオリン習いたいって言われた時、涙出そうになっちゃいました。ふふふ。」


「あら、そうなの。ふふ。良かったわね。」


「はい。」


「うーん。ねーねー。かーさまもヴァイオリンされてたの?」


「ええ、そうよ。鹿島先生は私の通っていた音大の講師をなされていたのよ。」


「へー。凄いねー。じゃー、かーさまも一緒に習う?」


「あら、それもいいわね。」


「ふふ。私は嬉しいけれど、香生さんの旦那様が泣いてしまうのではなくて。この教室、けっこう高めよ授業料。」


「うっ。確かに。」


「ふふふ。」


「あ、はいはーい。良いこと思い付いちゃった。」


「あら、なーに?文生。」


「私が習ったら、今度はかーさまに教えてあげる!そしたら、かーさまと一緒にヴァイオリン弾けるよー。」


「あら、それは良いわね。」


「ふふふ。じゃあ、文生ちゃんは頑張らなくちゃね。」


「うん。頑張る!」


「あらあら、では鹿島先生。文生の事、宜しくお願いします。」


「はい。お預かりしますね。」


「それでは、また。――文生、しっかりやるのよ!また後でね。」


「はい。かーさま。」


「では、始めましょうか。」


「はい。宜しくお願いします。」


「はい。宜しくね。ふふふ。」


 ◇



「只今ー。」


「あら、お帰り。って鹿島先生!?どうなさったので?わざわざ送って下さるなんて。」


「香生さん。ごめんなさいね。少し貴女とお話したくって。」


「あら!そうなんですか。大歓迎です。けど何も用意してなくって。お茶菓子とかはないのですが。」


「いいのよ。気を遣わないで。それより文生ちゃんの事でお話があるのよ。いいかしら。」


「あ、はい。どうぞお上がりください。」


「お邪魔しますね。」


 ◇


「それで、話とは。」


「ええ、その前に文生ちゃん。ヴァイオリン触ったの始めてなのよね。」


「ええ。それはそうです。家には子供用のヴァイオリンはありませんし、私のは実家にありますから。」


「そう。……文生ちゃんにも聞いたのだけれど、彼女も初めて触ったって言っていたわ。」


「え?まあ、そうでしょうね。」


「ところが文生ちゃん。普通に弾いていたの。」


「普通?初めてでも音くらいは出るのではないですか?」


「いえ。何と説明すれば良いか。


 ……そうね。文生ちゃん。ヴァイオリンの天才かもしれないわ。」


「へ?天才!?」


「そうなのよ。私が指示したことはもちろん、指示してないことまで出来てて。ポジション移動もスムーズで6thまでしてもらったわ。

 音階もC:dur、C:mollから一通り。Fisもesもよ。アルペジオも淀みなかったし、ビブラートもやって見せてくれたわ。音感も、あれ絶対音感持ってるわね。」


 ガタッ


「え?ええ?嘘でしょ?」


「指のタッチも綺麗だし、ボーイングも正確。

 試しに一曲弾かせみたのだけれど、キチンと楽譜も読めていたし、譜面もさらっていたわ。曲の表現力も素晴らしかった。

 ……ねえ、香生さん。文生ちゃん留学させてみるきはない?私の恩師が今イタリアに住んでいるの。彼に預けてみるのはどうかしら。ダグラス先生も、きっと気に入るわ。

 きっと、いいえ彼女なら、必ず世界的なアーティストになれる。それ程の逸材だわ。」


 呆然としたまま動かない、かーさまを見ながら僕は、またしても、やらかした事に気付いた。


(ちょっと、ジト目で見ないでよ。貴女だって、弾いてて楽しかったでしょ!なによ!そうよ!私も久しぶりで止められなかったわよ!すっごく楽しかったわよー!………………ごめんなさい。


 ふう。しっかし、天才とか。……どちらかといえば秀才なのよね。自分で言うのもなんだけど。

 1000回以上も繰り返しやっていればねえ。やれやれ。どうしたものか。)


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