第2話 ラキスケ最強!!!!!!!!!!

 ティムさんは腕を組みながら僕達見習いを見渡す。一度大きく頷くと、また大きな声で指名した。


「じゃあ次はミルキーだ!」


「すみません、出来ません」


「そうか! 正直なのは良いことだ!」


 ミルキーと呼ばれた少女、と言っても僕よりは年上っぽい髪の長い同じ見習いの人は即答する。


「……ただ代わりに、こういうことなら出来ます」


 そう言ってミルキーさんは右手を三十メトル先のシニさんへ向ける。するとシニさんの周りにふわりと白い雲みたいなものが出てきた。


「わっ」


 シニさんの驚く声と同時に、シニさんを乗せた雲が僕達の方へ飛んできた。雲と言ったけど、明らかに質量を持ってる。


「固有スキル、〝くも〟だね〜。災害の時に役立ちそうだし、私と組むことが多いかも〜」


「光栄です」


 速度を落とした雲は、僕らの近くにシニさんを運んできて急に霧散する。


 危ない、と思ったのもつかの間。シニさんの落ちる場所には蜘蛛の巣が広がって、傷一つ無くシニさんを着地させた。


「わたしは空に浮かぶ雲のような物質と蜘蛛の糸を作り出すことが出来ます。仰る通り、災害の場では役に立てると思います」


「アピールも大事だな! さて次はフーム! そこのハーフアップの女の子だ!」


「は、はい!」


 編み込んだハーフアップを揺らしてフームは上ずった声で返事をする。さっきのミルキーさんとは違って緊張が僕まで伝わってきた。


 する必要、ないと思うんだけどなぁ。


「じゃ、じゃあ隣の岩を壊します!」


「うむ!」


「ふっ!」


 フームはシニさんのように移動することはなく、普通なら動かすことも出来なさそうな大きい岩をたやすく宙に浮かせ、二十メトル程の高さまで持ってくると浮遊させることをやめる。


 真っ逆さまに落ちた岩は、割れはしないもののビキリとひび割れた。


「ご、ごめんなさい! 割れてない……!」


「ううん〜、つまり今度はもっと高く上げたら割れるってことだしね〜」


「だな! フームのスキルは汎用性が高そうだ!」


「あ、ありがとうございますっ!」


「じゃあ最後はトーリだな! ……と言っても、これはまた珍しいスキルだ。こんなの初めて見たぞ」


「私も〜」


「そ、そうですか……」


 そりゃ〝ラッキースケベ〟なんてふざけた固有スキルなんて無いよね!!! シニさんとミルキーさんも興味深そうな目で見ないで! そんな高尚な物じゃないから!


「う〜ん……、よし。トーリちゃん、もし岩を粉々にして砂みたいに出来たら私と相部屋で良いよ〜。お風呂上がりに裸も見れちゃうかもね〜」


「ええっ!?」


「と、トーリ! あたし以外にはしちゃダメって……!」


「良いの良いの〜。私から見たら十五歳なんてまだまだ子どもだし〜」


「「十五歳!?」」


 シニさんとミルキーさんは声を揃えて僕へ視線を向ける。


 確かに天帝魔法師の見習いとはいえ、固有スキルが発現してすぐにスカウトされるなんて普通は聞かない。それこそヒラさんクラスの人とかで、だからフームは村の出世頭として持ち上げられたんだし。


 ……と、関係の無いことを考えてもやっぱり思春期の僕はヒラさんの言葉を無意識に考えてしまう。




 ──もし岩を砂に出来たら、スタイル抜群のヒラさんと相部屋で裸を……!




 気付けば岩はと宙に浮き、何度も轟音を立てて岩が圧縮されていく。


 次の瞬間、一際大きなぐしゃりという音が鳴り、砂になった岩はさらさらと地面に落ちていった。


「……これは何というか、凄いね〜」


「ああ。俺も十年天帝魔法師をやってきたが、ここまでの逸材は初めて見た」


「アタシの同期にこんなのが……! しかも変態……!」


「……私はそういうのNGだからね。えっと、トーリ君」


「トーリってば、大人の魅力に騙されて……!」


「違うって! 今のはたまたまだよ! ていうか変態じゃない!!!」


 頑張って言い返すけどイマイチ信じてもらえない。不本意極まりないぞ……。


「よし、とりあえずの確認は出来た! では次は宿舎を案内するぞ! それと良かったなトーリ! ヒラの部屋は他の天帝魔法師とは違ってVIP待遇だから豪華だぞ!」


「あ、相部屋なんてしませんからぁ!!!」


 フームの視線が痛い! そんなつもりでやったんじゃないのに!


「ほら行くよ〜、トーリちゃん〜」


「ちょ、ちょっと待って僕は大丈夫ですってか力強っ嘘でしょ力強すぎませんか!?」


 そんな反論も虚しく、僕は思った十倍は強い力でヒラさんに連れて行かれたのだった。

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