白銀の魔法使い(企画参加書換版)

ジップ

第1話 出会い

 世界には二種類の人間がいる。

  "それ"が見える人間と"それ"が見えない人間だ。

 たとえ道行く人に訊ねてみても、大抵の者は見えないと答える筈だろう。

 だけど、私は違う。

 私には"それ"を見ることが出来た。

 それは物語で語られる妖精や妖怪といった者たち。

 私にはが見えるのだ。

 幼い頃から当たり前のようにはそこにいた。


 そして、いつの頃からか私は"彼ら"が見える生活に疲れ始めていた。

 日が暮れ始めてから朝になるまでの間、彼らは活発に活動する。

 その時間はできるだけ彼らに関わらないように街の中を朝まで移動して過ごすようになっていた。


 その日も私は、逃げるように街を歩きまわり夜をあかした。

 夜が明けると24時間営業のファストフード店に立ち寄った。

 一晩中歩き回ったせいで疲れ切り、空腹にもなっていたからだ。

 朝食代わりのハンバーガーを買うと彼らが場所に行き、それを口にした。

 彼らが全くいないわけではない。けれど、その数はずっと少ない。そこは私が安心して休める場所の一つだった。


 私はハンバーガーを食べ終えてようやく一息つく。

 今度は、睡眠をとるためにネットカフェか安いビジネスホテルを見つけなければならない。

 疲れきった体を起こす。そして再び歩き始めようとした時だった。


「ねぇ、君……?」

 突然、若い女性が声をかけてきた。

 どうやら旅行者らしく大きめのキャリーバッグを横に置いている。

 私がキョトンとしていると彼女は生真面目そうな顔を近づけてきた。

「ちょっと訊ねたいことがあるのだけれど……」

 彼女がそう言いかけた時、さらに誰かの呼ぶ声がした。

「おーい!」

 見ると別の女性が手を振りながらこっちに近づいてきた。

「私が忙しく歩き回っている間にナンパしていたのかい? ナタリー」

「私にそういう趣味はありません。そんなことより師匠マスター、少しお話が……」

 二人は私から少し離れると小声で話し合い始めた。

「なるほど、この子が……」

 どうやら私の事を話し合っているらしい。

 しばらくすると師匠マスターと呼ばれた女性が私のそばにやってきて私の顔を見つめてきた。

「君にも見えるのか?」

「見えるって?」

 私は一瞬、彼女が何を言っているのか分からなかった。すると師匠マスターは、私の後ろを指差した。

 振り向くといつものように"彼ら"が漂っていた。

 幼い頃から見慣れた妖精、妖怪と呼ばれる存在たちだ。


「あなたたちにも見えるんですか?」

「もちろんだ」

 私は驚いた。

 同じように“彼ら”が見える人間に出会ったのは初めてだったからだ。

「いつから見え始めた?」

「小さなころからずっとです」

「ふむ、これは逸材だな」

 師匠マスターは嬉しそうな顔を私に向ける。

「そんな君に素敵な申し出があるのだけれど……」

 師匠マスターは悪戯っぽい笑顔を私に向けた。

「君、魔法使いにならないかい?」


 これが私が不思議な物語に迷い込む始まりだった。

 その後、私は二人に連れられ、イギリスへと向かう事になるのだった。



オリジナル作品である『白銀の魔法使い』<第一話 出会い>はこちら

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894709900/episodes/1177354054894709967

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白銀の魔法使い(企画参加書換版) ジップ @zip7894

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