「だいぶ"犬"が板についてきたわね」

「わん」

「ふふっ……よしよし。そのまま聞いてくださいね」

「わんっ」

「私のご学友が何だか興味深い事を言っていたの……何でも犬にさせる、芸の一種なのかしら……内容はよく分からないのだけれども、それを試してみたいの」

「わん」

「協力してくれるかしら?」

「わん」

「準備はしてきたの。なんでもそれにはバターを使うらしいから、冷蔵庫から持ってきたのだけれども……どう使えばいいのかしら?」

「…………お嬢様」

「あら? どうしたの?」

「……僕が知っている限りではそれは、その」

「その?」

「……猥褻な、行為……かと」

「まぁ、つまり貴方は私のご学友が犬と猥褻な事をしている、と。そう言いたいわけね?」

「そ、そういうつもりでは……」

「ご学友の名誉のためにも、猥褻かどうかは私が決めます。それにその口振りですと、どのような事をするかはご存知なようですね?」

「…………はい、存じて、おります」

「では都合が良いですね、やってみせてください」

「……はい」

「犬の返事は?」

「わん……」

「よろしい。バターは……このくらいかしら?」

「わん……」

「それで、どうするの?」

「まずは」

「犬は喋りませんよ? ……そうですね、貴方はそれを何とかしてください」

「…………わん」

「さて、最初はどうするのかしら?」

「わん……」

「スカートをそんなに引っ張って……この椅子に?」

「わん」

「はい、座ったわ」

「…………」

「まぁ、私のスカートをこんなにも大胆不敵に……確かにこれは……」

「……ぅわん」

「本当に、このように進めるのですか?」

「……わん」

「確かにこれだと、猥褻な……行為かもしれません」

「わんっ!」

「ですが……貴方は協力すると、言いましたよね?」

「…………わふん……」

「もしかしたらこの先は……貴方が勝手にそのような……猥褻な行為だと思っているだけ、かもしれません。感性には個人差がありますから」

「……わん」

「それにそもそもは私が自身で調べなかったのが悪いのですから、貴方に責任はありません。確認と経験と、知識と自戒の為にも……続けてください」

「…………わん」

「それで次は……ふぅん、こんなところを……」

「……わん」

「この格好、とっても……恥ずかしいわ」

「……わん」

「それにしても今の状況、もし誰かに見られたら……」

「…………」

「ふふっ、その点は大丈夫よ。続けて」

「……わん」

「さて、お次はどうなるのかしら?」

「…………」

「んっ……犬が指を使うかしら?」

「…………わん」

「あんまりひっかくと痛いから、他の方法で頑張りなさい」

「…………わんっ」

「んぅ……まぁ……とても不躾、ね」

「…………」

「このようなところを……こんな……」

「ぅわん……」

「ふぅ……落ち着いたわ、さぁ次は?」

「わんっ……」

「ふふっ、指がくすぐったいわ……ここでバターの出番なのね」

「…………」

「そこがずっと気になってたの、バターを……どう使うのかしら?」

「…………」

「ん……んんっ……ここ、に? んっ……」

「…………わん」

「はぁ……はぁ……これは確かに、危ないかもしれませんね」

「わんっ」

「でも、犬は……んっ、先程のように準備をするでしょうか? 今回は……貴方が行って、いますから……準備を犬が進める事となりましたが」

「…………」

「どうなのかしら? まだ、続きがあるのかしら?」

「……………………わん」

「では、どうぞ。最も肝要な……部分ですから」

「わん…………」

「んっ、ふっ……あっ……そんな……」

「…………」

「そういう……んっ、事ですか……バターは……んぅ」

「…………わん」

「はっ、ふぅ……ちゃんと、最後まで……んっ、しましたか?」

「……わんっ」

「思うに……まだ、感触が……んっ、バターはある種の寄せ餌です」

「…………」

「ですから……ちゃんと、きっちりと……お願いしますね」

「……わん」

「ところで……先程から何だか渋っているようですが、バターか……あるいは、その周りに何か問題が?」

「……わん」

「……どっちか分からないわ、この返事のためになら喋ってもいいわよ」

「はい……その、どちらも……問題、無いです」

「問題が無い、だけ……?」

「……どちらも、風味豊かだと……感じました」

「そう、でも何というか……遠回しだわ、気を使ってるみたい……気を使わせるような風味、だったのかしら……?」

「いえ、そのような意味では……」

「じゃあ、どうだったの?」

「……言わなきゃ、ダメですか?」

「えぇ、言わなければ犬以下ね」

「……僕としてはそ、の……好ましい、感じ……でした」

「それ、それは……良かったわ。安心したわ」

「はい……」

「でもおかしいわね……貴方という犬は、バターを味わっていたのに……」

「……?」

「ここ、どういう事かしら」

「……っ、これは」

「私は先程の質問への返答だけ、許可しました」

「…………わん」

「おかしいわね、前に貴方から聞いた話だと……私が足の先でつついてるこれ……」

「っあ……わ、わん」

「たしか……時間帯、朝方にこのようになってしまうと聞いたのだけれども……今は朝かしら?」

「…………」

「他の可能性もあるかもしれないわ、例えば犬がバターを摂取すると……いえそんな話は聞いた覚えが無いわ」

「…………」

「だとしたら、大変ね……貴方は犬なのに、先程の行為で……」

「わん……」

「そうね、でも……とても問題ね、これ」

「ぅあ、うっ……わんっ」

「さぁて……どうしようかしら?」

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