「貴方の名誉を挽回するチャンスについて考えました」

「ありがとうございます、お嬢様」

「お礼はまだ早いわ、貴方が上手く成し遂げた時にその言葉を下さいな」

「かしこまりました。お嬢様の策に僕も期待しております」

「ではまずそこに腰掛けてくださる」

「はい……ここはその、ベッドですがよろしい、のですね?」

「えぇそうです。ではそのまま楽な姿勢で座っていて下さい」

「はい」

「そしてこの目隠しを付けなさい」

「はい……えっ?」

「目隠しです」

「…………はい」

「ふふっ、素直でよろしいわ。自身の立場をきちんと弁えてるものは好きよ」

「……ありがとうございます」

「少しだけ準備が要るの、そのまま待っていて」

「……はい」

「できたわ、座りますね」

「座……あのっ……!」

「気をつけてくださいね、落とさないように慎重に取り扱ってください」

「その……!」

「……無理ですか?」

「無理とかそういうのでは、なく……!」

「いいのよ素直に言ってくれて……重かったのね」

「そ、そんな事はありません」

「じゃあ大丈夫ですね」

「うっ、あっ……」

「もう少し膝を開いてくださる? 安定しないわ」

「……はい」

「さて、準備が整いました。これから貴方にはマッサージを行ってもらいます」

「この状態で、ですか?」

「この状態だからこそです」

「……かしこまりました」

「前回の失態についてですが、初めてかつデリケートな事を、曖昧な言葉による指示で、そのまま実行させた事が原因である、と私は考えました」

「はぁ……」

「無論、ある程度において曖昧な指示を汲み取る能力は必要です。でないと面倒で仕方がないですから。しかしです、一足飛びにはいけません」

「はい……そうでございますね」

「今回は初の事かつデリケートな事です、失敗は許されません」

「はいっ……」

「しかしこうも考えられます、失敗しようの無い状況であれば問題は無い、と」

「……そうではございますね」

「ですので私が指示します。貴方の手を取って、です。手取り足取りの内の手取りを本当に行う、ただそれだけです。お分かりですね?」

「はい……」

「今日して頂くのは……ここです」

「……っ、お嬢様その」

「なんでしょうか? 名前で言うならここはお腹ですね」

「そちらの話ではなく……なぜ素肌が?」

「あら? 足でも同じように素肌でしたでしょう? それに別の理由もございます」

「はぁ……」

「では初めましょう、空調は入っておりますが冷やすつもりもありませんからね」

「はい……」

「最初は撫でるように……そう、目隠しをしているのですから……形を覚えないとやり辛いですからね」

「……はい」

「んっ……貴方の親指の爪……蒸れやすいところを掻いてくださっていますね」

「……っ」

「私が手を取っている以上、失敗とはなりません。ただ……貴方が勝手に手を動かした結果、よろしくない……エロい箇所を触れた場合は容赦いたしませんからね?」

「……かしこまり、ました」

「ではだいたいの形や位置等は覚えましたね?」

「……はい」

「今回はずっと私が手を取るので大丈夫ですよ……では手を、こう……掬うような形に揃えて前に……そうです」

「はい……っ、なんで、すこれ?」

「肌に良い、保湿剤です……少々触感が変わっておりますが」

「そう、で……ございますね」

「あまり多すぎても面倒だから今はこのくらいね……じゃあ手を合わせて」

「はいっ……」

「まずは貴方の手に馴染ませるようにすり合わせます。そうしないと冷たいですからね、ちゃんと温めてください」

「はい……」

「では……手を、そう……ふふっ……」

「っ……」

「馴染ませるように……丹念に、隅々まで、ムラなく……」

「はい……」

「手が大きいですから……早く終わってしまいそうですね」

「そうです、ね」

「脇腹も……そしておヘソの周りも……」

「は、い……」

「……良かったわ」

「……ありがとう、ございます」

「じゃあ続きをお願いするわね」

「えっ……?」

「まだ全然終わってないですから。さぁ先程と同じように手を出してください」

「はい……」

「先程手を取っている時の感触からして、このような保湿剤を使っていたとしても……私の手から貴方の手が滑るような事が起こるものでは……ありませんね?」

「はいっ……! 滑りません、滑らせません……!」

「えぇ結構、貴方の不手際の可能性が減って良かったわ。前回のように手が滑る事はありえませんね」

「はいっ」

「結構……さぁ、馴染ませてください」

「……先程より多いですね」

「さっきは少し量が不足していましたから」

「そう、ですか」

「では手を……んぅ、んっ…………」

「……お嬢様っ!?」

「どうかしましたか?」

「えっ? いや、これ、その」

「ここです。合っておりますよ」

「…………」

「目隠しをさせたのはこのためですから……んっ」

「その…………これ、は……どのっような……」

「保湿ね」

「……そ、そうですか」

「まずは……下から、そう……」

「…………」

「蒸れる部分は特にお手入れが必要、ですから……」

「……はい」

「パタパタと……軽くはたくようにして頂くと……痒みにも良い具合ですわね」

「……っ、はい」

「では、全体を……満遍なく……」

「はい……」

「ところで貴方、よろしいからしら」

「……何でしょうか」

「今の状況とは一切、何も全く関係は無いのですが」

「……はい」

「貴方は、異性の胸はやっぱり大きい方が好みかしら?」

「うえっ?! ……は……い……?」

「そう、貴重な意見をありがとう」

「ど、どう……いたしまし、て?」

「小耳に挟んだのだけれども、異性に胸を……揉ませると、大きくなるというような話があるらしいわね…… 一体どのような状況なのかしら? それにそのようなエロい事、ダメだと思わない?」

「…………はい。思います」

「そう、それは良かったわ。ふぅ……慣れない事をして疲れたわ」

「……では、その……切り上げ、ますか?」

「中途半端で終わらせるつもりは無いわ、そして少し対策があるの」

「……何でしょうか」

「えぇ、貴方を背もたれにするの」

「……っ! その、それは……!」

「何か問題でも? やっぱり重いとかかしら?」

「そ、そうではなく……!」

「……あらっ、何だか座り心地が……悪いわね」

「それは、その……」

「これは一体、何でしょうか……見てみたいところですが、生憎手が離せません。ポケットに……何か入れてらっしゃるのかしら?」

「そ、うです……ポケットにものが入って、おります」

「へぇ、一体どのようなものを入れてるのかしら」

「…………ツボ押し用の、棒で……ございます」

「あら、貴方なりに前回の事を悔いているのね……嬉しいわ」

「ありが、とうございます」

「ではその心意気に免じて、座り心地の件は許しましょう。今、ポケットからその棒を取り出そうとしますと……ズボンが保湿剤で汚れてしまいますものね」

「……はい」

「ですが座り心地が悪いには悪いですから……多少動いてしまうかも、しれませんが……構いませんよね?」

「はい…………」

「ですがそう……堅いですからね、押しすぎて痛い時は言ってくださいね」

「……かしこまりました」

「おおよそ塗り終わりましたね、ですがこのあたりでも……特に蒸れる場所がまだ、残ってますね」

「……はい」

「……ここです。どうしても閉所になりがちで……」

「…………」

「そうですね例えば……そのツボ押し棒、でしたっけ? それを使えば……」

「っ……!」

「いえ、冗談ですよ? そう……そもそも取り出せない、ですから」

「……は、い」

「それにしても……これは本当に、ツボ押し用の棒なのでしょうか? いえ、貴方の事を疑っているわけではありません。ただそのような器具にしては……太い、ような気がいたしましたので、疑問に思っただけです」

「……布越し、だからだと、思います」

「そう……そうなのでしょうね、きっと」

「はい……」

「では最後にそうですね……貴方の機転と言えば良いのかしら、センスが見てみたいわね」

「……と、言いますと?」

「ここ、んぅっ……この部分だけど……分かるかしら?」

「……………はっ、い……」

「貴方ならここに……どのように保湿剤を塗り込むのか、試したくなったの」

「…………かしこまり、ました……」

「デリケートだから……大事に、扱ってね?」

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