「…………弁明の機会を与えましょう」

「…………ありがとうございます」

「御託は良いわ。何故、私を起こさなかったのかしら?」

「はいっ……お嬢様が、寝入っていたためでございます」

「ほう……私が惰眠を貪ったのがいけなかったと、そういうわけね?」

「いいえ、違います」

「……聞きましょう」

「まず起こした場合です。この場合眠りを著しく妨げられた上に重ねて、非常にお怒りになられます。しかし、起こさなかった場合はお怒りのみ、もちろんそれは大変なものですが、お怒りのみです。よってあの状況での最善は起こさない事だと判断しました、そして無理にお嬢様に起きて頂いても不快な目に遭わせないようにするのが間に合わない、とも」

「……それが一晩考えた結論ですか」

「……はいっ」

「ふぅ……分かりました。一つ、確認したい事があります」

「はい」

「何度も申し上げておりますが、私は淫らな事が嫌いです」

「重々承知しております」

「まぁそれは関係無いと思いたいのですが……今回の"これ"は何ですか?」

「寝小便、つまりお漏らしでございます。お嬢様」

「…………そう」

「僕自身大変遺憾です、お嬢様のお手にお漏らしをしてしまうなどと……既に僕はお嬢様のですので無意味ではありますが、贖罪のために僕は何でも行います。叶うならば、如何様な事でも」

「……分かりました、貴方の弁明は聞き届けました」

「ありがとうございます」

「まぁ確かに、そこまで言うのなら……考えましょう。それに私も配慮が足りなかった部分はあります。あの時点で寝るという前提ではございませんでしたものね」

「はい、僕がそこに思い至らなかったばかりに……」

「そこまでは言っておりません、私の責任です」

「……はい」

「さて、では参りましょうか」

「……どこへでしょうか?」

「汚れているのですから、分かるでしょう?」

「……かしこまりました、準備してまいります」

「いいえ、その必要は無いわ。ついていらっしゃい」

「……はい」

「結論から言いますと、今回の件は許します」

「ありがとうございます」

「それは貴方の忠誠心と咄嗟の判断、そして私の落ち度に依るものです」

「心得ております、お嬢様の寛大なお心に感謝いたします」

「もちろん、貴方の何でもするという約束は……果たしてもらいますが」

「……はい」

「まぁそれに関してはは別の機会です……そもそもの話ですが、昨夜の趣旨は覚えていらっしゃるかしら?」

「覚えております。接する機会を……増やす、と」

「その通り。タイミングとしてはチグハグですが、今回は今までの働きに報いるための褒美を……与えようと思っております」

「…………」

「それに良い機会ですわ、貴方のお手入れを私直々にする……良い機会」

「……はい」

「さぁ、準備をして。他の準備は私が手配させるから」

「……かしこまりました」

「今回は前とは違い、貴方のお手入れがメインです。ですから私も無防備とは行きません」

「……はい」

「さあ、ここに座って」

「……はい…………お嬢様、その……近くありませんか?」

「そうかしら?」

「僕の背中を、流す……という話だった、と記憶しておりますが」

「例えばの話ね、今回は違うわ……私とした事が大事な事を忘れていたわ」

「……なんでしょうか」

「まずは私の手を洗わないと、貴方のお手入れが出来ないわ」

「……はい、ここに湯を準備しましっ……たっ?!」

「ふわぁ……まだ眠いから、そのまま支えててくれる?」

「かしっ……かしこまり、ました」

「……さてと、手は洗えたわね」

「…………はい」

「一応言っておくと、貴方の全身をお手入れなんてするつもりは無いわ」

「……はい、ではその……どこを?」

「それは決まってるわ、汚れてるところよ」

「…………左様に、ございますか」

「えぇ、汚れている部分を洗う。お手入れの基本でしょう?」

「そうで、ございますね……」

「見やすいようにしてくれるかしら、肩越しより鏡越しの方が楽だわ」

「…………はい」

「えぇ、だいぶ見やすいわ。じゃあまずは泡を立てて……」

「…………」

「はいっ、良い具合でしょう? 手だけでこんなに立たせるのは難しいんですよ?」

「……そうでございますね」

「この泡を……汚れたところに、そうっと……」

「…………」

「こうやってしておけば汚れが浮いてくるでしょう、その間に周りを洗ってしまいましょう」

「っ……はい」

「まずはそう、お腹とか……昨夜撫でたのを思い出しますわね? あれのせいだったのかしら?」

「いえっ……そ、そんな事は、ありません……っ」

「そう、考えすぎだったというわけね。じゃあ次は両側を……」

「ぅ……ぁ」

「私のと違って、少し堅い気がしますわね」

「そ、うでございます、か……ぅ」

「……すんすん、耳の裏までしっかりと手入れをしているのね。感心だわ」

「っ……ありがとう、ございます」

「両側も十分に洗った事ですし、一番汚れているところに取り掛かりましょう」

「っ……は、はい……」

「……ふむふむ。何だか……様子がおかしいわね」

「そ、そうでしょうかっ?」

「泡で細かい様子は分からないけれども……何だか、とても洗いやすいわ?」

「それっ、は……」

「この部分ですと、思い当たるのは……」

「生理現象で、ございます」

「まぁ、それって……」

「お、嬢様の……懸念しっ、ている事とは……っぅ違うと、思いますっ」

「へぇ? それは何故?」

「寝起き等にっ、全自動でっ発生するからぁ……です。一切の意図、関係無しに」

「そうだったの……初めて知ったわ」

「無理からぬっぅ……事です。デリケートな、事柄ですから」

「そうね、確かにそれなら……私が知らなくともしょうがない事だわ……私の無知を許してくださる?」

「はっ……いっ……ぅ」

「どうかしら、具合は」

「……大丈夫、です」

「大丈夫? 良いか悪いか聞いているのに……それじゃあ何かに耐えてるようだわ」

「…………っぁ、その……お嬢さ、ま……よろしいっ、でしょうか」

「えぇ、どうぞ」

「……また、漏らしっ……てしまいそうですので、その……席を立っっぅ……ても」

「まぁそれは大変ね、でも昨夜のように間に合わないのでは?」

「あの時は……動けませんっ……でしたから」

「でもいけないわ、もしかしたら外で準備してる子と鉢合わせるかもしれないわ」

「でっ……ですが」

「そうですねぇ……私が許可します。ここでしてもよろしいわ」

「うぇ、あっ…………その、でも……」

「ここでするのは褒められた事では無いわ、でも廊下でされるのはもっと嫌ですし、他のものに見つかってしまうのも良くないでしょう?」

「……いえっ、でも、そのぅっ……」

「ほら、こうやってお話してる間に時間が経っちゃったわ?」

「うっぅ……」

「それにしても何だか……複雑な形状ね。例えばここ……」

「っ! ……そこはっ」

「このような形状では……汚れが溜まりやすいのではなくて?」

「……っは、はいぃ……」

「無論、このようなところを見られたりする事など早々ないでしょうが……不潔なのはダメよ?」

「ぅわ……わかりましたっ」

「だからちゃんと、念入りに……洗ってね」

「はいっ」

「あとはこの……下の方ね。こちらは特にデリケートというのは知っています」

「あっ……」

「ですがしっかりと洗うように。適切な範囲で、ではありますが」

「はいっ……ぅ」

「ほらっ、漏らしてしまっても良いのですよ?」

「うぁ……うっ」

「私が……お手伝いして、さしあげますから」

「……は、はいっ」

「さぁ……遠慮なさらず」

「うっ……うぁっ……くぅ……っ!!」

「ちゃあんと……全部出しきって」

「くはっ、はいっ……ぅっ!! ……ふはっ、はぁ……はぁ……」

「あらあら、昨夜お漏らししたというのにたっぷりと……」

「……す、すいません」

「今息が荒いのは……寝起きすぐにここに来てしまって、飲み物を頂いてないから……そうですわよね?」

「……はい、その通り、です。お嬢様の……おっしゃる通り」

「ふふっ、じゃあしょうがないわね」

「…………はい」

「さてさて……お掃除の手配も致しませんと」

「っ……僕がやります」

「ダメです。脱水症状が出ている方には……任せられません」

「……うぅ」

「恥ずかしい事ではございますが、仕方がなかった事……私からキチンと……懇切丁寧に理由を説明、しておきます」

「…………ありが、とう……ございます」

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