「今日のマッサージも良い具合だったわ」

「ありがとうございます」

「肩も足裏もふくらはぎも、随分調子が良いわ」

「お褒めに頂き光栄です」

「手早くなりましたし、疲れも見えなくなってますね」

「はい」

「じゃあそろそろ頃合いね、他の部分もしてもらいましょう」

「…………かしこまりました。ではどの部分を?」

「そのまま待ってなさい、準備するから……んっ」

「その……それは」

「見えてないでしょう?」

「はい……ですが、その……」

「見えていないのであれば、ふしだらな考えも思い浮かばないでしょう?」

「……はい」

「布の無いところ、そこを頼みますわ」

「……かしこまりました」

「……体重が乗った感じがしませんね」

「すいません、ちょっと遠く……」

「そうですねそれは考慮していませんでした」

「横に回らせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「いえ、そのまま前に来なさい。ふくらはぎの上に乗る事を許可します」

「し、しかし……」

「良いと言っているでしょう? もちろん、痛くなるほど体重を預けてはダメよ?」

「……かしこまりました」

「これで距離の問題は解決ね、じゃあお願いするわ」

「……はい」

「これは人の構造上、仕方のない事だけれども……ふくらはぎよりも大きいわよね」

「……はい、致し方ない事かと」

「下から上に、さするようにするのが好みだわ」

「……承知しました。次回以降、そのやり方を組み込みます」

「えぇ、お願い」

「……はい」

「……ねぇ」

「はい」

「強さもやり方も結構だけれども、足りないわ」

「……申し訳ございません。どのような、事柄でしょうか」

「私は布の無いところと言ったのを覚えておりますか?」

「……はい、覚えております」

「無論それはざっくばらんな指示ではあります、そしていきなり顔をやり始めるだなんて無作法は当然入ってません」

「はい、それは心得ております」

「その機微で指示した範囲において、不満がありますわ」

「……はい」

「ここまで言えば分かるでしょう?」

「……はい、もっとその……上と言う事で、ございますでしょうか」

「そうよ、じゃあその通りにお願い」

「……かしこまりました」

「ちゃんとこちらが位置を調整し、指示しているのですから……このような不手際はよろしくないですよ?」

「……はい、注意いたします」

「ではよろしい、続けて」

「……はい」

「そう、ちゃんと布の際までお願いしますね」

「はい……」

「布のところはダメですよ?」

「……心得ております」

「生地が薄いから尚更です。まぁ、ふしだらな思いを抱かないよう対策は少ししておりますが」

「……?」

「今は手に集中してください……っと」

「……!? あっ、す、すいませんお嬢様……咄嗟の事に、手をどけるのが……いえ、すいません。僕の落ち度です……」

「ふむ、本来であれば今触れた箇所は到底許し難い事です。しかし、今回は私が何も言わず身体を動かしたのが主たる原因です。更に今やっている事は不慣れ、それに先程の指摘で動揺していたのでしょう。許します、事故ということです」

「……本当に、申し訳ございません」

「えぇ、気をつけてくださいね」

「……はい、精進いたします……」

「そこまで萎縮せずとも良いのですよ」

「はい……」

「……では、お詫びとして今やっているところに追加して、腰もお願いします」

「……分かりました」

「今と同じように腰掛けて構いませんよ?」

「……はい」

「んっ、良い具合です」

「……ありがとうございます」

「もう少し上もお願いできます?」

「お安い御用です」

「ふぅ……今度から背中もしてもらおうかしら」

「……はい、お任せください」

「じゃあ、もう少し上の肩甲骨のあたり、お願いできる?」

「えぇ、大丈夫です」

「……あら? おかしいわね」

「……どうかなさいましたか?」

「そうね……確認のためにもう一度、今度は手の平で押してくれるかしら?」

「……? はい、こうでしょうか」

「……不思議ね。このあたりを上から押して貰っても、あんまり効いてる気がしないわ。どうしてかしら?」

「んー……どのように効きませんか?」

「効かない具合の説明は難しいわね……そうねぇ……」

「はい」

「まるでクッションが間にあるような……そんな感じかしら」

「クッション、ですか」

「そう、最初に足裏をしてもらった時の事を覚えてるかしら?」

「……はい、思い出しました」

「あんな感じが近いかしら」

「あの時と違い、体重はしっかりと乗せて下は同じ……」

「そうね、同じく、ベッドだわ」

「そ、そうでございますね」

「さて、どうしたものかしら」

「……マッサージの中には摘む事でやるような形もあるとか」

「…………じゃあ、それで我慢するわ」

「はい……では取り掛かります」

「あら……?」

「……っ!」

「……良くないわね」

「も、申し訳ございません……!」

「えぇ、二度も"手"が当たる事故だなんて、良くないわ」

「…………はい、身体を起こす際に手が、滑り、ました……」

「確認だけれども、手なのよね?」

「……はい、手です」

「そう」

「……はい」

「それにしても……不手際が過ぎるわね、今日はもう良いわ」

「……面目、ございません」

「そうね、これは少し対策を考える必要があるわね。今日はもう下がって」

「……かしこまりました」

「あぁその前に、それを取ってくれるかしら」

「……はい、只今……っ?!」

「早くしてくれる? 私は今、機嫌が悪いの」

「は、はい……」

「一体何を驚いてるのかしら……普段見慣れているでしょう?」

「ど、どうし……すいません、理由をお聞きする事を……お許しください……」

「生地が薄いからラインが浮きやすい、それは……よろしくないでしょう?」

「…………ご返答と、お気遣いありがとうございます」

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