「退屈だわ……」

「左様にございますか」

「貴方何か……芸などは無いの?」

「お嬢様を楽しませるようなものとなると……不甲斐ない事に僕には心当たりがありません」

「そう……なら貴方、犬になりなさい」

「……今も犬のようなものでは?」

「おかしいわね? 最近の犬は二足歩行をするのかしら?」

「……これでよろしいですか?」

「言葉も」

「……わん」

「ふふっ、そうねぇ……ルールを決めましょう」

「わん……」

「犬と言っても、あくまでもこれはごっこ遊び。私としても貴方を完全に犬のように扱うつもりでは無いわ」

「わん」

「色々面倒だから、私の言葉が分かるだとか、服を着ているとかの些細な事は許すわ。これは遊びなんだから」

「……ぅわん」

「だからあまり無茶はさせませんし、貴方も余程の事があれば喋っても良いわ」

「わんっ」

「さて、犬になってもらったもの……どうしようかしら?」

「わん」

「ふむ……お手」

「わん」

「おかわり」

「わん」

「おすわり……はしてるわね。伏せ」

「……」

「ふふっ、そこは黙るのね。じゃあ次は……」

「わふっ……」

「立て」

「……わん」

「何か不満そうね? 言いたい事でも?」

「わん……」

「喋るようにと思ったのだけれど、そこは融通を効かせて欲しいわね」

「……申し訳ありません」

「それで、さっきはどうしてあんな表情を?」

「いえ、その……芸の順番に……」

「へぇ、興味深いわ。どういう順番のつもりだったの?」

「それは、その……伏せのあとに……」

「あとに?」

「……ち、ちんちんをさせるものだとばかり」

「まぁ、そのような猥雑な言葉を? 私が?」

「……申し訳ございません、ただそのような順番が一般的かと思ってつい」

「ちんちん等と、そのような言葉を口にするわけないでしょう?」

「……はい」

「そのような猥雑な名前の、犬にさせる芸としてちんちんというものがあるのは知っていますが、私は言いたくありませんわ」

「はい……」

「それとも、私に言わせたかったのかしら? それとももしかして……したかったのかしら?」

「いいえそんな! 滅相もございません!」

「ならよろしい、それで今の貴方は何?」

「いぬ、っ……わんっ」

「結構……さて、芸自体は一通り行ったのですから、褒めて差し上げませんとね」

「…………」

「あら? 好きでは無い?」

「っわん」

「良かったわ、撫でられるの嫌な犬なんて扱いに困るもの」

「……わん」

「それじゃあこっちへおいで」

「わん……」

「よーしよーし……よくできましたねー」

「……ぅわん」

「大人しく撫でられるだけなんて、随分行儀の良い犬ね」

「わん……」

「例えばそう……おやつをくれるものと思って、手を探るのでは無くて?」

「わん……」

「そう、そんな感じ。初めての犬にしては上出来だと思うわ」

「わんっ」

「突然思いついたから、おやつは用意できてないわ」

「わん」

「でも貴方は犬、催促するのでは無くて?」

「…………わん」

「そう。そんな風に手を、指を……ふふっ、くすぐったい」

「わん……」

「他にもあるのでは無くて?」

「わふっ……」

「親愛の……まぁそちらについては今日は勘弁しておきましょう。この後の用事に差し支えますし」

「わんっ……!」

「それじゃあ、今日は終わり」

「……ご満足頂けたでしょうか」

「えぇ、十分よ。犬気分が抜けたら、お手拭きを持ってきて」

「かしこまりました」

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