「マッサージをお願いできるかしら」

「かしこまりました、お嬢様」

「だいぶ慣れてきましたね、良い事ですよ」

「ありがとうございます」

「それじゃあそうね、まず……肩からしてくださる」

「はい」

「……そう、揉むように。どこかで経験が?」

「昔は、家でよく」

「孝行なものね、本当に」

「……はい」

「叩くのもお願いできるかしら」

「はい」

「んっ……いい具合」

「結構、凝っているように……っと、感じますね」

「えぇそうね、肩は凝りやすいの……一体どうしてかしらね?」

「……さぁ、僕には見当も」

「もう少し強く……そうリズミカルに」

「はい……」

「目を酷使するのは避けているのに、困っちゃうわね」

「……そうでございますね」

「ふぅ……いい具合、続けて。身体が弾むみたい」

「……はい」

「貴方は肩こりの対策方法は何かご存知?」

「その……あまりは、知りません」

「つまり少しは知っている、と」

「……そうですね」

「それはそれは……是非とも聞きたいわ」

「腕を回す、ですとか……腕を後ろに、ですかね」

「こんな感じかしら?」

「はい……」

「あんまり効いてる気がしないわね、もっと大きく動かした方が良いかしら?」

「それは……避けた方が、よろしいかと」

「どうして?」

「やりすぎは良くないですから」

「そう、じゃあ腕を後ろに……んっ」

「…………」

「引っ張ってくださる?」

「その、やはりそのやり方でもやり過ぎは……」

「つっかえてて、物足りない感じね」

「それは……もう十分動かしているため、かと……」

「引っ張るのは少しで、それで痛めたとしても、それは私の責任よ?」

「いえ、その……」

「引っ張りなさい」

「…………はい」

「んぅ~……いい具合。引っ張って正解だったわ」

「……はい」

「引っ張ってみての感触はどうだったかしら?」

「……は?」

「感触よ、おかしな事を聞いたつもりは無いのだけれども。凝りがあるような感触、あったかしら?」

「それはその……分かりませんでした」

「そう、まぁ腕はゆっくりと磨いてもらうわ」

「……かしこまりました」

「肩はもう良いわ、次は足をお願いするわ」

「……はい。 ……お嬢様?」

「どうかしたかしら?」

「いえ、その……何故ベッドに、と」

「むしろどういう体勢でするつもりだったのかと、私の方が聞きたいわね」

「……てっきり跪かせるものかとばかり」

「それではやりづらいでしょう? 慣れていない事を慣れていない姿勢でさせるのは良くないわ」

「はい、そうですね」

「それに……跪くと見えちゃうんじゃないかしら?」

「……それは考えてなかったです」

「そう、良かった。前にも言ったと思うけれどもいやらしい事はダメよ」

「……はい、分かっております」

「分かっていてくれて良かったわ。それじゃあ足裏からお願いするわね、待ちくたびれちゃった」

「……かしこまりました」

「やり方はお任せするわ」

「はい」

「タイツはそのままで大丈夫かしら?」

「……構いません」

「指の間とかも……と思ったのだけれども、じゃあ今回は良いわ」

「はい……では取り掛かります」

「……そのやり方は何? 全然物足りないわ」

「その……ベッドが大きくて、手が届きづらく……」

「登ればいいのよ。もちろん土足厳禁ですが」

「……承知しました」

「さっきみたいにベッドに押し込むようなやり方は良くないわ」

「はい……」

「足の甲を取って……そう、持って支えて足裏を……んぅ……」

「これでよろしいでしょうか」

「えぇ……それで良いわ、続けて」

「はい」

「ヒールが少し高いのかしら? 貴方はヒールが高い靴と低い靴、どちらが良いと思う?」

「……お嬢様であれば、どちらであろうと似合うかと」

「ふふっ、本当に……んっ、慣れてきたわね」

「ありがとうございます」

「足裏はそのくらいで良いわ。ふくらはぎを揉んでくれる」

「かしこまり……ました」

「どうかした?」

「いえ……スカートをその……」

「自分で上げたの、じゃないとやり辛いでしょう? それとも他に……何か?」

「……ございません」

「良かったわ、もし中が見えてしまっていたらどうしようかと思っていたのだけれども……杞憂なようね」

「はい、一切見ておりません」

「……じゃあふくらはぎ、してくださる?」

「はい」

「両方をバランス良くね……そう……やっぱり上手ね」

「ありがとうございます」

「こんなに上手なら……ご褒美として私がしてもあげても良いかもしれないわね」

「……っ! すいません、手が滑ってしまいました」

「ふふっ、欲しがりやさんなのね」

「その、そういうわけでは……」

「まぁいいわ、手が滑った先も問題無いようですし」

「……ありがとうございます」

「ですがそうね……手が滑ったという事故なら……仕方がないですわよね?」

「…………」

「ふふっ、そんなに気にせずとも良いのですよ? 平常心を保てるよう成長していけば大丈夫ですから」

「……はい」

「じゃあ、今日のマッサージはこの位で良いわ」

「……ありがとうございます」

「次は別のところを頼むから、準備しておくように」

「…………かしこまりました」

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