第19話 時計と龍
交錯した剣から澄んだ金属音が鳴る。
龍鱗製のキバの剣〈ウロボロス〉に対しベルフの剣は剣が真ん中で真っ二つに割れ、間に金色の円柱と円錐を合わせたような物体が付いた物だ。
数秒の鍔競り合いの後、ベルフはキバから距離を取る。
(な・・・!?剣士だろ、何で間合いの外側に出るんだ!?)
策なのか、無意味か、予想がつかない。
これなら、剣の間合いから離れて攻撃できる。雷で加速、捻れを加えながら放つ。
しかし、その予測は一瞬にして打ち砕かれる。
風、そして雷がベルフから約十メートルの所、空中で弾ける。霧散した風がキバの黒髪が揺れる。
ベルフは更に剣を後ろに、弓のように腕を引き、剣を前に突き出す。真ん中の円柱が高速回転し、斬撃が弾丸のように撃たれる。ドリルのように回転する斬撃は、空気抵抗を減らしてスピードを上げる。
(なるほど、そういうことかッ!!)
対抗する強力な魔法を撃つには時間が足りない、剣は大きい為に大振りになりすぎて打ち消しは難しい。
右足で蹴り、左側に跳ぶ。身体を一瞬横向き、少し身体を捻る。コートの裾が膨らみ、その裾の一部が抉れる。ギザギザの荒れた切り口は、強い回転と威力を予想させた。
しかし、そこで後ろ、コートの裾を見たのが悪かった。
ばつんという嫌な音が響き、キバの視界、左半分が消える。
(あぁ!?どういう・・・あぁそういう事か!)
キバの顔面、左半分が頬の辺りまで抉れていた。鮮血や骨の破片、脳がシェイクされた液体じみた何かが飛び散る。
あの斬撃に抉られたのだろう。
「・・・ってえなぁ!!」
剣を持つ右半身の動きが鈍くなる。左脳が消えたからだ。即座に左手にウロボロスを持ち替え、大きく振るう。
呪力を流すと、細胞分裂が加速し、ものの一秒にも満たない時間で抉られた部分が再生する。
「ったくよぉ!俺じゃなかったら死んでるぞ!」
「そうか、ならば死ね」
そこでキバの意識が一瞬途切れる。
一瞬。ほんの一瞬だった。意識を失ったか、瞬きをしたのか。その差さえ理解出来ないような微かな瞬間だったのに、先程まで無かったドリル状の斬撃が眼前にまで迫っていた。
「〔護るは三重の盾〕ーー
夏休み中、フラーとの組み手で習得できた、
ウロボロスを使えば一瞬だが、手の内をできる限り明かしたくないキバとしては使わざるを得ない。
月の光の様に上から差し込む光の壁が斬撃を阻み、キバを前へ進める為の守護者となる。
足が腹に付くくらい折りたたみ、後ろへ蹴る。風の塊を足場に進む為、地面との摩擦が減る事で少し早く動ける。
そして、前に進む最中、キバの目がある物を捉えた。
ベルフの目だ。右目に青い機械的な輝きが灯り、瞳の中に幾つか歯車が見えた。
(なるほど・・・こいつも
夏休みの自由研究として、キバは図書館で呪術物品について調査した。
呪術物品は、それら一つ一つに特殊な呪術が施されており、その呪術は異形から抽出されたものらしい。
そして、呪術物品を手に入れた際、一瞬右目に鋭い痛みが走る。これは「
呪いに抵抗出来なければ呪われ、身体を内側から破壊され、次なる異形となってしまう。そして、抵抗できた者は、呪いを受ける器が形成され、呪子が発芽し、右目が変化する。
そして、最上級呪術物品の呪いを受ける事が出来れば、人知を越えた、物品を最大限活かせる能力に転じる。
(そして恐らくあの目・・・最上級か!?)
通常の呪術物品であれば、右目の色が変わる程度。しかしベルフの目は歯車が詰まっている。
つまり
(最上級呪術物品・・・十柱の内一つを所持している訳か)
最上級呪術物品は世界に十個あるとされ、畏敬の意を籠め十柱と呼ばれる。
ウロボロスは、第五柱。
現在、キバが知る最上級呪術物品は五つだ。
(知ってる奴ならいいんだが、な!)
より相手の呪術物品を探る為、距離を詰める。直進と左右にスライドする移動を繰り返し、斬撃を回避する。
しかしベルフも手練れ、突如キバの意識が飛んだと思えば眼前に現れ、蹴りや殴打、剣で間合いを詰めさせない。一進一退の攻防が続く。
「〈目覚めよ黒風、地上を削れ〉、〈なぞるは海龍が軌跡〉!!〈ブラックウィンド・リヴァイアー〉!!」
黒い風が吹き付け、抉り、水の流れが海龍の如くうねり、ベルフに打ち付けられる。
「ぐっ・・・!」
ベルフが苦悶の声を挙げる。
連撃、刃や針となった風と水が身体めがけて撃たれ、雷が周囲を埋める。足元は炎で焼かれ、逃げ場は無い。
(さぁ、どう出る・・・!?)
ベルフを少し離れた場から注視する。
そこで、キバは見た。
ベルフがズボンのポケットに手を入れ、何かをいじる。
その途端、ベルフを中心に次第に周囲にある物の動きが停止してゆく。波紋が広がるように停止し、遂にはキバまでもが停止する。
その刹那、キバの中の予想は確信へと変わる。
(周囲の停止、時間の逆行!!間違いねぇ!!)
やはり意識が戻ると鳩尾のすぐ前に斬撃がある。服と肉、内蔵や骨を抉りとられるが、痛みを悟らせない表情で、淡々と再生させる。
「ーーうぉっっっ、らあああああああああ!!」
ウロボロスを盛大に天井めがけて振るう。天井の石膏は砕け、瓦礫として雨のように降り注ぐ。
風の爆撃がキバの魔法で引き起こされ、細かな破片へと姿を変える。
キバの指先から微かな魔力が放出され、空気中を上昇するタイミングで発火する。
「ーーまさか!?」
ベルフがポケットに手を突っ込み、いじろうとした瞬間。
キバが懐から懐中時計を取りだし、時間を見る。
「八時二十一分ー三二秒ッ!!」
言うと同時、ベルフが何かをいじるのをやめる。世界が次第に止まり、キバの動きも停止する。
「粉塵爆発か・・・考えたね」
そうして、ベルフがゆっくりとキバに歩み寄る。
「まだ、若いなッーー!?」
語尾が跳ね上がる。
理由は当然、キバがベルフを蹴り飛ばしたからだ。
しかし、キバの動きは止まっていた筈。
「な、何故・・・!」
「決まってんだろ・・・お前の攻略法が分かっただけさ、〈クロノス〉さん」
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