第16話 1年1組(平凡除く)
「あの馬鹿はまだかーッ!!」
「はよ来いや平凡馬鹿あああ!!」
午前8時、ギルシュ首都下級区、一角の廃工場。
空間魔術でねじ曲げられた空間の、廊下を抜けて一番目の大広間。
部屋の最奥には奥へと続く巨大な石の扉がある。
早朝に乗り込んだ1年1組は、突入後廊下を突っ走ってここへ来た。
待ち受けていたのはーー
大量の
現場は地獄絵図だ。
腐敗し、異臭を漂わせ、黴を生やしたり内臓が飛び出てたりする屍を前にしたのだ、当然である。
「あああ!!くっそ、第ニ段階〈迅雷〉ッ!!」
「〔巡れ惑星〕!〈
ゲインとポート、二人の第ニ段階が発動する。
瞬時に放たれた雷の糸がクラスメイトに近づく屍を痺れさせ、軌道に沿って動くコインが頭を撃ち抜く。
脳の中身をぶちまけても、屍は立ち上がり、攻撃を加えんとする。
「きりが無ぇ・・・ぶち込むぞ、ポート!」
「おっけ任せて!」
軌道上を回転しながら進むコイン。弾丸の様に加速したコインに、ゲインの剣が電気を付与する。
「「<
屍の頸椎を捻りながら撃ち抜くコイン。屍は動きを止め、崩れ落ち、粒子になる。
しかし、まだ倒せたのはたった数体、まだまだ3桁単位で屍は残る。
「しゃーねぇ、やってやらぁ・・・<
カーターが叫び、魔力を込めた右手を地面に叩き付ける。
魔方陣が広がる。召喚術式の陣だ。
そして、その中から出てくるのは――
――女性だった。
「・・・<
ただし、通常の人間とは違い、体の至るところに継ぎ目があり、肌も幾らか無機質に見える。
そして何より、右腕に機関銃、左腕にナイフが装着されていた時点で正気を疑うレベルだった。
「エリザベス、
『承知致しました、マスター』
無機質な声を放ち、機関銃から弾丸をばらまく。
屍の首を容赦無く抉り取るその様を、淡々と見届けるエリザベス。
生徒がある種の恐怖を抱いた瞬間だった。
「ハァ、ハァ・・・ほんっと、最ッ高・・・!」
クロエが息を荒くしながら屍を殴り跳ばし、蹴る。
「・・・最高って、何が・・・?」
ノアが、恐る恐る問い掛ける。
「え?あ、いや私
そう言いながら動きは止めない。
自分の性癖を晒しておきながら眉一つ動かさない胆力に、ノアは感心さえ抱いた。
「・・・なら、僕も頑張らなきゃだね」
歪んだ空間は天井も高く、龍が上昇して尚も余裕があった。
クラスメイトの間を縫うように吐息が放たれ、屍は灰も残さず消え去る。
クロエも屍一体一体を丁寧に上空へ蹴り上げ龍の爪へと送り届ける。
コンビネーションの力は、屍をいつの間にか減らす事に成功していた。
「ふふ・・・レイナさんでもこれ程広範囲の攻撃はできないでしょう?」
微笑を浮かべて余裕のある対応を見せるレイレイコンビの片割れ、レイラ。薄紫の魔導書から立ち上る魔力は気体のよう。
「〈第ニ段階〉、〈
一滴、毒が魔導書から滴り落ちる。
水溜まりのように毒は拡がり、触れた屍はドロドロに溶ける。
そして、溶けた屍からも毒の溜まりが拡がり、周囲の屍を殲滅する。
「・・・死んでたら承知しませんよ、レイナ」
「・・・ゲイン、ヤバいよ」
「まったくだ、キリがねぇ」
屍は倒せど倒せど地面から湧くように生まれてくる。正直消耗が激しくなる後半に向けて体力を温存させたいところではあるが、その余裕さえ与えさせてくれない。
悪戦苦闘、四面楚歌とは正にこの事であると、ゲインは思う。
暗い感情が心を蝕み始めた瞬間だった。
「「〈
屍はおろか、地面、上から雪の結晶さえ落ちてくる凍結。
天高く氷柱が生まれ、淡い青色の輝きを帯びる。屍を捉えた氷柱はその成長を止めた。
アルロとスノウが莫大な魔力と引き換えに生んだ時間だ。
「・・・長くは、持たねぇ・・・今の内に、休め・・・」
アルロが息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。
へたりこむようにして膝を折り、一息ついて天を仰ぐ。
「・・・お疲れ様です」
「あぁ」
休憩中のアルロに、タマモが労いの言葉をかける。
「・・・怒ってる?」
「怒ってなんてないです」
「・・・怒ってるな」
言葉を少し交わしただけでお互いの気持ちを読む二人。軽く笑って、一息吐いて落ち着くアルロ。
「アルロ、なんでお前らそんなタマモと仲良くなってんだ?」
「・・・付き合ってるからな」
アルロとタマモが頬をすこし赤く染め、そっぽを向く。
「はあああああああああああ!?!?」
「いやさ・・・キバ達と同じタイミングで告って・・・オッケーもらった」
「あ、アルロくん!?それ言わない約束だったじゃないですか?!」
全員が驚愕の声を挙げる。
何せアルロもタマモも入学当初はいわゆる「近寄るなオーラ」を放ちまくり、そのうえアルロに至っては「殺し屋の目」だの「無口な歴戦の猛者」なんて言われていたあの二人が、まさか色恋沙汰に手を出すとは思ってもいなかったのだ。
「・・・はぁ、恥ずかしい」
「アルロくんが言うからじゃないですか!!」
涙目でぽかぽかとアルロを小突くタマモ。微笑ましいような、妬ましいような気持ちがクラスの男子の胸中に渦巻く。
一発シめてやろうか、そう思った途端だった。
ピシリ、氷柱に罅が入る。
全員が氷柱から跳び退り、臨戦態勢を取る。
「・・・全員、落ち着けよ!!」
メイソンの一喝で、クラスが静まる。
氷柱が割れる。ギシギシと身体を軋ませながら、屍が溢れ出てくる。
「メイソン、攻めるか!?」
ゲインが指示を仰ぐ。
一触即発、屍が動き出しそうな、刹那。
「お前らそこをどけぇ!!」
快活な声と共に一陣の爆風が部屋を吹き荒れる。
「やっ・・・と来たかよあの
ゲインがニヤリと笑い、全員を部屋の隅へと追いやる。
広間へ突入する直前、背中に掛けた剣を腰に掛け直し、構える。
本来止まって放つべき居合いを動きながら放つそのスタイルは、ヤマトの異端「鬼道流」のみ。
「・・・〈鬼道流居合い・
ヤマトの怪物、鬼が門を押し開けるかのような前へ押し出すその力は、密集していた屍の首はおろか体ごと押し潰し、奥の石扉に叩きつける。
空を駆けてきた剣の主は、黒いコートの裾に風を孕ませながら音も無く着地する。
ブーツの裏が石の床を叩いて硬質な音を響かせながら歩く。
乱雑に切られた黒髪が、風に揺れ、真紅の左目と縦長に瞳孔が走った金色の右目。
特徴的なようで、何処にでもいそうな
「遅くなったな!」
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