第14話 あの日から/大事件
「お、おいどうしたんだよ急に・・・」
ゲインやポート達が怪訝そうな顔をしながらアイギスを励ます。しかし依然としてアイギスの顔は翳ったままだった。
この表情になった理由を、キバは知っていた。
「悪い、アイギスは俺が預かってく」
「・・・仇、だもんな」
あの場からかなり離れた開けた野原。
丈の長い草は風になびき、そよそよといい音を立てている。
とはいえ夏、日差しは強くお世辞にも最高の環境とは言えない。
芝生の上に座り込んだキバとアイギスの顔は、少し曇っていた。
「・・・ああ」
3年前の春も終わりかけていた頃の事だった。
アイギスの母親が、殺されたのだ。
現場は自宅、朝起きてきた父が発見し、その時にはもうすでに息絶えていた。
見るも無惨な凄惨な死を静かに表すその母の姿は、齢たった10歳の少年にはおもずぎた。
唯一残された手掛かりは、床に刺さっていた名刺サイズのカード。
恰も当時流行っていた怪盗に準えていたかのごとき紙片には、
『ヴァルシュータ・フォートレスの生命は刈り取らせて頂いたーー大鎌』
あの日から、アイギスは変わった。変わらざるを得なかった。
温厚な外面と性格、その中に秘められた狂気と殺戮衝動を内包して日々を過ごした。
そうでもしないと、怒りが薄れ、風化し、やがて消えてしまう。
毎日奴へ近づく為の努力をし、追い付くまでに至った。
そして、最後のピースを持つ者が、消えた。
憤慨して当然だった。
声を上げて泣いてよかった。
それでも、アイギスは耐えた。まだ、怒りを放出するには、早かった。
沈んだ空気が場を支配する。
静寂が続き、午後の日差しが肌を焦がすのが分かった。
二人は何も言わなかった。
静寂を破る、甲高い悲鳴が耳を打つ。
声の方向は、寮だった。
「・・・まさかッ!?」
地を蹴り、駆ける。
「離して!!離してよ!!」
「・・・お静かに、姫」
首に手刀を落とされ、レイナは気絶する。
学生寮の屋根の上。
長身の冷酷な目をした大男と、大鎌を持った中肉中背の男が立っていた。
居合わせた生徒が攻撃を加えるが、当たったと確信したような技が、一瞬で他の地に移動されて当たらない。
「・・・ぃぃぃぃぃねぇぇぇえええええええ!!!!!!」
空中から襲いくる彗星の様な剣。キバだ。
怒りに満ちた第ニ段階。真っ黒な魔力を帯びて突撃する。
鎌とぶつかりあって火花を散らし、威力を相殺される。
背後からアイギスが近づき、拳の一撃を加えんとするが、気づくとまたどこかへ移動していた。
(・・・まただ、あの何かが抜け落ちるような感覚)
「・・・姫は頂いていくよ」
柔らかな物腰で語りかけてくる大男。キバはウロボロスを向けて敵意を示す。
「名乗れ、そしてレイナを解放しろ」
「ほう、なかなかの胆力だ・・・俺はベルフ。こちらがキグル・クロアズだ」
鎌を持った男と共に名前を告げる大男ーーベルフは、再び確認するかのように、述べた。
「俺達の計画に姫は必須、よって返してもらう。そこの少年の胆力に免じ、三日間だけ猶予をやろう・・・来るならこい、命が惜しくないのなら、な」
そういうと、忽然とその姿を消した。
「・・・また、かよぉ・・・ッ・・・!!」
キバの頬を、涙が伝った。
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