第13話 お戯れを

「え、あれ!?あれあれ!?なんで僕の眷属殺されちゃってるのォ!?」

一つ一つオーバーな動きで驚きを表現するヴァーリック。

「だから言ったろ白助、俺の友人は死なねぇってな・・・あいつらは俺が直々に指導してんだぜ?」

「いちいちうざったい発言だね・・・あとその白助っていうのも気に入らない」

「白髪なんだ、白助でいいだろ」

さっきまで笑っていたヴァーリックの笑みはどこかへ消え去り、今度はキバがニヤニヤと笑い出す。

ただし、その右目は金色に染まり、縦長に黒い瞳孔が鋭く入っている。完璧な臨戦態勢、剣を正眼に構えれば意識は戦闘へと引きずり込まれる。

「しょーがないなぁ・・・ふふふ!!」

笑いながら投擲される短剣。どれも綺麗な銀色で、気を抜けば切創が幾つも生まれるだろう。

キバは右目を細める。後方から突風が帯状に放たれ、的確に短剣にぶつける。力同士がぶつかり、相殺しあって短剣は地に落ちる。

ヴァーリックはいつの間にか大玉に乗り、ナイフや手榴弾をジャグリングしている。

ナイフと手榴弾が一つずつ投げられる。

手榴弾を風の弾丸で弾き、西へ駆ける。

突如として右足に違和感を覚え、足を止めて振り返る。

(くっそ、ナイフかよ・・・!?)

ナイフを引き抜くと同時、傷は塞がり痕さえ残さない。

もう一度走りだそうと足を進めると、身体が強ばって上手く動かない。

「麻痺毒だよ・・・!!上手く動けなくてもどかしいでしょ!?」

喜色満面、いかにも罠に嵌まって嬉しくてたまらないといった表情。

そのままナイフを投げてくる。

「遠距離からチマチマと小賢しいなぁ!!」

ズボンのポケットから一枚の紙切れを出す。

ギルシュの物とは思えない言語、それは東の方で使われる『漢字』と呼ばれる文字。画数が多く、難解な物も多いそれは、とある術式に向いているのだ。

「〔弾けよ災禍〕、<呪符じゅふ反響呪盾はんきょうじゅしゅん>!!」

紙切れ、札を投げると、そこからどす黒い呪力が溢れ出る。水の中に黒い絵の具を溶いた時のように空中で溢れ出た呪力が盾の形を無し、ナイフから身を守る。

「それだけで終わらせるかよ!!」

呪いの力を得た盾は、同じ苦痛を相手にも与える。反撃するようにじわじわと痛みがヴァーリックの身体を蝕む。

<再生>が毒素を分解し、再び身体を動かす。

風の刃を生み出し、飛ばす。刃を避けるのにヴァーリックの視界を奪う間にキバは距離を詰める。土煙を起こさないようにしながら駆け、ヴァーリックの足にある大玉を斬り、割る。

風船が割れるような音が響き、ヴァーリックが足から落ちる。

「あぁもうほんとうざったいね君!!姫は僕達がなんだ!!」

「・・・それは、レイナがお前達を必要としてるのか、それとも逆か、答えろ」

ヴァーリックの恨み言に対し、冷たい声で応じるキバ。

剣先を地に尻を付けたヴァーリックに向けて問う。

キバの目には光など一筋も無く、ただ絶対零度の如き響きを含んでいるだけ。

剣圧も放ち、威圧感と緊張感に満ちた空気で肌がピリつく。

「決まっているだろう、僕達だ!!」

目を見開き、怒りに満ちた表情でヴァーリックは答える。

「僕達は『誰もが幸せな世界』を作る為に動いている!!その為には姫が必要なんだ!僕達は、君達の為に動いているんだ!!」

立ち上がり、ナイフを構えるヴァーリック。

「俺達の為だと・・・!?ふざけるのも大概にしろッ!!」

今度の憤慨は、キバの番だった。

「俺達がいつお前達に頼んだ!俺は苦しくても足掻いた上に幸せが成り立った!!お前達の助力や活動など、求めていないッ!!!」

互いに距離を取り、剣を向け合う。

「うるさいッ、ふざけてるのはそっちだろう!?夢を見るのも、戯れも、いい加減にしろよ!!!」

ナイフを触媒、起点として魔術を放つ。

様々な色、武器が入り交じったこれが、きっとヴァーリックの魔術の奥義だ。

本能的に感じたキバの目には、何か分からない好感情が輝いていた。

「あぁそうかよ!!じゃあ全力で、遊んで、お前を倒してやるよ!!俺の戯れで、お前を潰す!!」

まだ13歳、相応の言葉でぶつかって。

大人ですら登れない階段を登り詰めた先にあったのは、幸せと不幸せ。

鏡合わせの二つを交互に経験して、得た喜び。

それら全ての否定を、キバは許せなかった。

目を見開き、瞳が収縮する。

剣を振り、魔術を斬る。

真っ正面から突っ込み、魔術の根源へと近づく。近くになるにつれ威力も上がるが、キバには関係無い。

傷ついても傷ついても、ただ進むことしか考えない愚者には、進む事しか出来ない。

「<失法黒剣術ロスト・ブラックセイヴァー黒刃深翼ディープノアール・ウィング>!!!!!!!」

横に広がった刃を突き出し、ヴァーリックの身体を切る。

肺や胃を含めた脇腹をざっくりと切り裂く一撃は、生かしもしなければ殺しもしない、優柔不断な一撃だった。


「は、はは・・・まさか、本当に戯れで倒されちゃうなんてね・・・」

地に仰向けで寝そべりヴァーリックは、どこか清々しくも悔しさが混じる表情だった。

「悪いキバ!!遅くなった!!」

「ごめんよ~」

四人も続々合流し、事情を話せばすぐ理解した。

「ふふふ、あはははは・・・!!!!!!!!!!!!」

「何がおかしい、エンターテイナー」

「お褒めにあずかり光栄だよ・・・まぁ、<吸血鬼>と<富豪>はやられちゃって、僕こと<道化師>もやられた・・・でもね、<大鎌>と<首領>にかかれば、君達なんて一握りだよ」

まだニヤニヤと笑みを浮かべるヴァーリック。

その言葉に反応したのは、キバでは無く、だった。

「大鎌・・・?大鎌、だと・・・!?」

ふらふらと夢遊病者のように呻き、歩き、ヴァーリックの胸ぐらを掴んで持ち上げる。

「大鎌について、知ってる事を全て話せッ!!!!」

凄まじい剣幕で問い詰めるアイギス。

「・・・教える訳ないじゃん、遊びすぎた僕でも分かるよ」

言うと、口が激しく動き、そのままヴァーリックは気を失う。

次第に脈が弱くなり、止まった。

「舌噛んで、死んじまった・・・」

ゲインが呟くと、アイギスはゆっくりとヴァーリックの亡骸を地に置き、叫んだ。

「・・・畜生ッ!!あと、あと少しだったのに・・・ッ!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る