第12話 進歩
「あーあー・・・やっぱ翼竜の武器って言えば爪だよね」
生成した岩の壁を爪で砕かれたアイギスは、独りごちる。
三人とはぐれてしまったアイギス。頭の中では、三人の事など考えず目の前の敵をどう倒すかという演算が組み立てられている。
「でも、体は小さいし軽いだろうな・・・」
しかもなかなかのスピード。なんなら飛んだ時の風で体も斬れてしまいそうだ。
「んー・・・どうすれば、より速く攻撃できるか・・・」
速さで勝てる訳もない。かと言ってそれを打破する手段もほとんど無い。
「・・・しょうがない、『全面撃ち』でいこう」
方針決定。詠唱を開始するアイギス。体の周囲に古代の読めない文字が舞い、翼竜が怯む。
「〔壁、床、天井。全ては僕の領域。僕の激情を、表に表せ〕」
アイギスを中心に飛び散った魔力。それを種子に、地面は、岩は成長を開始する。
金色の目が輝いた時、魔法は完成した。
「<
床、壁、天上。アイギスが居る場所以外の全ての場所に細く鋭い岩の棘が生み出される。全て部屋の空間の中心に向けて生えた。
当然、中心地点に陣取っていた翼竜は刺し貫かれる。
身が弾けるように突き刺さってゆく棘の進行を止めることは出来ない。唯一の武器たる爪は脚に通じる神経を刺されて動かせず、翼も穴だらけで飛べない。
滴る血を眺めながら、アイギスは呟いた。
「君に罪は無いけど、ごめんね。僕が進めないんだ」
「うっわー・・・これ多分殴打が効かない感じかな・・・」
黒い金属製と思しきゴーレム。おそらく
「でも攻撃主体が瓦礫投擲とかなんだよねー・・・」
そう、がっつり衝撃系。最近は領域で回転させたうえでぶつける攻撃が基本になっている。
「しょーがない・・・こればっかりは使うしかないよねー・・・」
目を閉じ、感覚を閉じ、三つ数える。
ゴーレムの巨体が動き、大質量の拳が振りおろされる。
三秒。その重量に見合わぬ俊敏さで叩き付けられた拳。
本来なら、そこに居るのは人間だった物体。
あるのは、瓦礫のみ。
拳の右側、約5メートルほどの距離にいる、人影。
ゆらりと起き上がった影は、口の端を上げ、真っ赤な口を大きく開けて――
「あ、あは、あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」
眼光も気配も、そもそも声音さえ違う。
「あぁ、なるほどねぇ・・・じゃぁこれでいいよなぁ!!」
腰の後ろに背負っていたバッグ。積載量に限界がない魔法を組み込まれた鞄の中から取り出されたのは、四本のナイフ。
投擲されるナイフ、魔力の流れに乗って周回を開始する。
進行方向に切っ先、その為人間なら当たれば致命傷は避けられないだろう。
加速するナイフ、狙う先はゴーレムの継ぎ目。
「お前の隙間突くなんて、お茶の子さいさいなんだよおおおッ!!」
切っ先が空を切り、継ぎ目にナイフが突き刺さる。
左肘、左膝、頸元、胸元。刺さっても尚突き進む、敵を殲滅するまで。
「
ゴーレムは核に編み込まれた指示に従って動く。つまり核を壊せば意味をなさない。
ゴーレムの堅い体を削りながら突き進む。たとえ鉄の塊であろうと、宇宙空間では石ころで穴を開けれる。
そして今、ポートを中心とした小宇宙が広がるこの空間において、核を壊すなど造作も無い事だ。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハブッコワレロオオオオオオ!!!!」
とうとう声まで壊れたポートが、魔力を軌道上に流し、ブーストをかける。
「〔ぶち抜け〕ェ!!<
かつての人間達が飛ばした『
ポートは、あの遠い空に向けて魔力を注ぐ。
ナイフが加速し、突き進む。
堅い魔鋼鉄の体を穿ち、核を真っ二つに砕く。
中枢機関が壊されたゴーレムは、その機能を停止した。
「・・・ハァッ、ハァッ・・・」
ポートは、荒い息を繰り返す。
「・・・やっぱ、アレを使うのは慣れないなぁ・・・」
「・・・こいつ、面倒臭い」
ソバーの相手は、カメレオン。
そう、カメレオンである。
バケモノの様に大きく、そのうえ舌から酸性の液体を分泌し、自分の隠れている場を悉く見切って攻撃してくるまっこと厄介な敵である。
「・・・は、腹立つ・・・!!」
そろそろ怒りが頂点に達しそうなソバー。現在、息を殺してカメレオンの後ろに忍び寄っているのだ。
足音を殺して、少し跳躍。この距離なら首筋を後ろから掻ききれる。
そう思っていた矢先、カメレオンが前へと急進、後ろへと長い舌を伸ばしてくる。
「・・・ッ!?」
サイドステップで躱し、迷彩剣の力を解除する。
舌が床に落ちると同時、床が煙を上げて溶解される。
(酸性の液体・・・?しかも、後ろに居ても気づかれる・・・?)
どこかで見たこの条件、ソバーの脳内にある記憶を全てひっくり返して探りを入れる。
(あ・・・!?)
まだ初等部にさえ入っていなかった頃、家の図鑑で見た。
たしか、「ミツメアシッドカメレオン」というカメレオン。
頭の上にも目があり、その目だけはとてつもなく視力が良い。そういう風な記載がされていた事を思い出す。
ソバーは、手元にあった小石を幾つも投げ、視界を石で埋め尽くす。
視界が遮られ、目先さえ見えない不安からかカメレオンは激しく鳴き、身体を震わせる。
しかし、その小石の中、身体を透けさせて真っ正面からソバーが飛込む。
第三の目をまず剣を投げて突き刺し、視力を奪う。やはりカメレオンにとっても痛いのであろう、悶絶している。剣を素早く抜き去り、暴れ狂う舌を右へ左へ躱し、ガラ空きになった胸元へとダイブ。
深々と剣を突き立て、心臓を探す。
剣を抉れば鮮血が吹き出し、心臓にたどり着いた頃には、カメレオンは失血死していた。
「・・・悪い」
一言詫び、血にまみれた手で先に進む。
「おーおーなんじゃこりゃあ!!」
そして、巨大食人植物を相手にしていたゲインはというと。
「さすがはキバだな、こいつなんて楽に倒させてくれそうだ!!」
ニヤニヤと笑みを浮かべている。
突き進む先には植物。ハエトリグサのように大きく口を開けた植物はツタを伸ばし、ゲインを貫かんとする。伸縮自在の槍のようだ。
しかし、ゲインはそれを気にする事もなく豪胆に笑いながら剣を振る。
ツタが弾け、緑色をした細胞質が流れ出し、足下を汚す。当然、ゲインも始めは忌避感を覚えたが、今はもはやそれどころでは無い程に攻撃していた。
「よえぇなぁ!!おせえなぁ!!」
右腕に持った剣を背中に付くように腕を回し、右足で地を蹴る。
矢の如く本気で跳んだゲイン、身体は帯電し、電気と同じ速度で駆ける。
目で追えるのは、フラーやキバと言った、大物達くらいのものであろう。
植物を根元から焼き切り、その生命を終わらせる。
「はっはっは!!さすがキバ、俺の事をよく分かってるじゃねぇか!」
そう、全てはキバが夏休み中にゲインに教えた事なのだった。
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